りさと家路につく時、栞は遥との秘密のことを打ち明けた。
「石坂さんに口封じされてたんだ……」
「黙っていてごめんね、石坂さんが怖かったから言い出せなかったの」
りさは複雑な表情を浮かべる。
「あんな超常現象起こせるなんて……本当悪魔にとり憑かれたとしか思えないよ
栞ちゃんが黙っていたくなるのも、今なら理解できるよ」
りさの言い分は最もだ。
教室での出来事は今でも信じられない。
休み時間が終わっても皆はその話題で持ちきりだった。中には手品だと言い出す者もいた。
「本当にもう学校には来ないのかしら、明日には帰って来たりして
今までのことは皆に構ってもらいたくてやりました! とか言い出したりして」
りさは大袈裟に言った。
「そうだったら良いけど……」
「どうしたのよ、気になるじゃない」
栞の歯切れ悪い言い方に、りさが問いかけた。
「石坂さん、誰かに助けて欲しかったのかも……」
栞は思ったことを口にする。
「家で嫌なことが沢山あって、元になっている父親にいなくなって欲しくてオカルトに没頭した
気味の悪い儀式をしたり、魔法陣を描いていたのも、誰かに気づいて欲しくてやった。そうは考えられない?」
栞の話を聞いていたりさは真面目な顔だった。
「栞ちゃんの話は筋は通ってると思うよ、でも」
「でも?」
「何で人に言わなかったのかな、家庭が切迫してるなら尚更だよ、私だったら先生に相談するよ」
りさはハキハキと言った。
いつもの栞なら「そうね」で済ませるが、内容が内容のため言わざる得ない。
「皆が皆できる訳じゃないと思う、石坂さんは誰にも相談できないから間接的にやってたんだよ」
栞は一言一言を落ち着いて語る。
できるだけ、相手を刺激しないように。
しかし栞の思いとは裏腹にりさの顔色は不満で塗られていた。
「何それ……納得いかない」
「りさちゃんみたいに誰かに相談できる人ばかりじゃないと思う」
「私の言ってることが間違ってるっていうの?」
りさは自分の胸に手を当てる。
自分の意見を反対されたことが気に障ったのだ。
「そんな事言ってないよ」
「だったら石坂さんに聞いたの?」
「違うよ」
栞は両手を前に出した。
「石坂さんに聞けたら聞いてるよ……振り返ってみると石坂さんと仲良くしてあげてなかったなって、今になって後悔してるよ
りさちゃんに言われなかったら多分私話しかけてなかったと思う 」
栞は遥とかかわり合いを持てば良かったと痛感した。
そうすれば遥の家庭のことに早く気づいて対処できたかもしれないからだ。
りさの顔から不満が消え、代わりに悲しみの顔に入れ替わる。
「栞ちゃんのせいじゃないよ、悪いのは石坂さんのお父さんじゃん」
りさは静かに言い放つ。
それだけは確かだった。遥の父親がまともな人だったら遥が失踪しないで済んだのに。
「お父さんはもういないから帰ってきていいのにね……」
栞はやりきれない思いで一杯になった。

その後、遥がいなくなってから一ヶ月が経っても、行方は分からないままだった。
遥は悪魔に連れていかれた、放課後に遥を教室で見たという噂が流れたが、やがて忘れ去られていった。

4 戻る 6

inserted by FC2 system