何の前触れもなく遥が現れ教室にいた人間は困惑と恐怖といった感情が入り交じり、中には逃げ出す者もいた。
「ど……どっから入ってきたのよ」
「分からない」
りさは栞の後ろに隠れ、栞は足が震える。
教室内が重い雰囲気に包まれる中、一人の女子が前に進み出る。
クラスで学級委員長を勤める堀井だ。
「石坂さん、今までどこに行ってたの? あなたのお父さんが死んだというのに」
堀井は強い口調で言った。
委員長をやっているため度胸があり、遥を怖がっていない。
栞は堀井が勇敢だと思った。
遥は質問に答えず「ふっふっ……」と笑いだした。
「何がおかしいのよ」
堀井が不快そうに言うと、遥は声を出して大笑いした。
大人しい印象しかない遥の変貌に教室にいた皆が戸惑った。
「あの男が死んだのは私が呪い殺したからよ、ようやく願いが叶ったわ!
ずっと長い間やって実らなかったけど、これでママも安心して眠れる!」
遥は両手を上げて嬉しがった。
目から涙が薄っすらと出ている。
「……頭大丈夫かしら?」
「しっ!」
栞はりさに喋るのを止めるように注意する。
運が悪いことに栞は遥と目があってしまった。
遥は軽い足取りで栞の元に来た。
「吉木さん」
「な……なに」
栞はどうにか言葉を吐き出す。
普段とは違う遥に心理的な圧迫を感じざる得なかった。
「約束は覚えてる?」
遥の質問に栞は一回頷く。
「誰にも言ってないよ」
栞は迷いなく答えた。
両親やりさにも話していない。
「守ってくれて有り難う、あなたはおしゃべり男子と違うのね」
遥は満足そうだった。
"おしゃべり男子"とは遥の趣味のことを口走っていた二人のことだ。
「教室に来たのは、お別れを言いたかったの、もう学校には来られないから」
「どうして?」
「魔法の代償よ、人を呪った分術者にも跳ね返るの」
遥が言った直後だった。突如教室の窓が全て開き、強風が吹き付けた。
強い風に栞は思わず目を瞑る。
「さよならみんな、ここでの時間は悪くなかったわ」
遥は寂しさを含んだ声で別れを告げた。
風が止み、栞は目を開くとそこには遥の姿はなくなっていた。
「何だったのよ……」
「分からない」
りさの疑問に栞は答えられない。
今起きた現実が夢にしか思えなかったからだ。
散乱した教室を立て直し、先生が来ても栞は遥のことが頭から離れなかった。
先生にさっき起きたことをりさが言い、先生は困惑する。
「石坂のことが心配なのは分かるけど、ウソは良くないぞ」
「本当なんです!」
りさの意見を取り合わず、先生は授業を始めた。
先生がそう言うのも無理はないと栞は思った。どこからともなく遥が現れ風と共に消えたなんて信じてもらえなさそうだ。

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