栞が遥のことで思い悩んだのはこの日だけだった。
何故なら遥は失踪したからだ。その事を先生から聞かされた。
休み時間の間、りさは遥の失踪のことを口走る。
「行方不明か……何があったんだろうね?」
「さあ……」
「石坂さん地味だから誘拐ってことはないよね、狙うんだったら私みたいに可愛い子よね」
状況を考えるとりさの発言は聞き捨てならない。
「りさちゃん……そんな事言っちゃダメだよ」
「別に良いじゃないの、石坂さんいないんだし」
「それでもダメだよ」
栞は念を押して言った。
りさは眉をひそめる。
「何で石坂さんの肩を持つの?」
「そういう訳じゃないよ、石坂さんを悪く言うのは良くないよ」
栞はきっぱり言った。
昨日の遥を思い出すと寒気がするが、りさの話には同感できない。
「おい、聞いたか? 石坂のヤツ黒魔術やってたらしいぜ」
「マジかよ」
「あいつが妙な儀式をしているのを目撃したヤツがいてさ、ヘビの死体やトカゲのシッポを並べて呪文を唱えてたらしい」
「何だそりゃ、気味悪っ」
「昨日なんか魔法陣描いていたのをオレ見ちまったよ」
男子の会話にりさは「へえ……」と呟く。
「石坂さんって変わった趣味持ってたのね、魔法陣なんて今時流行らないわよ」
りさは呆れたように言った。
「そうね」
栞は平静を装った。男子同様に栞も遥の魔法陣を見ているからだ。
「もしかしたら誤った使い方をしたから自分も消えちゃったのかもしれないわね
本で読んだことがあるの、魔法は便利な反面使い方を間違えたら危ないって」
りさの言っていることは一理ある。なので栞は頷かずにはいられない。
「りさちゃんの言ってることはあり得るかも」
「本気にしちゃダメよ、魔法なんて現実にはないよ」
りさは言った。
休み時間終了のチャイムが鳴り響く。
「席つこうか、あーあ、次は社会か……」
「お互い頑張ろうよ」
憂鬱そうなりさを、栞は励ました。
席が一つ空いた教室で栞は授業を受けた。遥の行方を気にしながら……
警察が捜索しているにも関わらず遥の消息は分からないままだった。
一人欠けた席の教室になってから丁度一週間、事態は思わぬ方向に動いた。
遥の父親が亡くなったというのだ。死因は病気らしいが、この父親は家庭内ではろくでもない人物で働かずに家にいてばかりいて妻に手を上げたりしていたという。
栞は教室で話を男子生徒から聞き、嫌な気持ちになる。
「石坂さん……可哀想」
栞は遥が気の毒に思えた。
"あの男"というのは父親のことで魔法陣で消し去りたいほど憎かったのだ。
悲しいことに父親だけでなく、遥自身もいなくなってしまったのだ。
「石坂さんが恨むのも当然だよ、そんな父親」
りさの体から怒りを感じる。
りさは両親の仲が良く、遥の父親の行いが許せないのだ。
「自分の父親が死んだことを石坂さん、どう思っているのかな」
栞は遥の机に目をやる。
父親が亡くなり、 目標を達成できて遥がどんな気持ちなのか気になった。
突如男子たちの声が上がり、栞とりさは声のする方に目をやる。

黒板の前で遥が虚ろな表情を浮かべたまま立っていた。

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