時間が経過し、終業式が終わり下校時刻となった。
「廊下で待ってるから」
「うん、ごめんね」
教室の外にいるりさが栞に言った。
栞は用事があった上に、自分の荷物を整理してなかったため帰りが遅くなってしまったのである。
……今後は気を付けよう。
栞は自分に言い聞かせ、ランドセルを背負い手提げ袋を持った。
幾つもの机を通りすぎ、扉に向かっている時だった。
「さよなら」
栞の耳元にはっきりと声が聞こえ、栞は足を止めて後ろを振り向く。
当然の事ながら誰もいない。
「どうしたの?」
りさが呼び掛けてきた。
「今……石坂さんが……」
栞は最後まで言おうとしたが「ううん」と言葉を切る。
「教室を目に焼き付けておきたかったの、最後だし」
栞は早足でりさの隣に立つ。
「行こう!」
栞はりさと並んで一緒に廊下を歩いた。
……さよなら、石坂さん。
栞は心の中で遥に挨拶した。
姿はないけど、どこかで見ていると信じて。

栞は忘れなかった。変わった同級生がいたということを。
その子は魔術で姿を消したということを。


5 戻る

inserted by FC2 system