風紀委員と夏祭り・その2 作者:ねる

明美は雪乃と共に屋台を歩いていた。
そんな時だった。
明美の携帯が鳴り響き、明美は制服のポケットに入っている携帯を確認する。
そこにははっきりと「伊澄」と書いてあった。
反りの合わない人間だとしても一応はクラスメイトなので、携帯に登録はしている。
「誰から?」
雪乃は明美の顔を覗き込む。
「伊澄からよ」
明美は手短に答え、電話のボタンを押す。
本当は出たく無いが、後を考えると怖い。
「もしもし」
『やっと出たか、遅ぇよ』
慧は相変わらず噛み付くような口調だった。
「何のよう?」
『オレは今、獣道にいる。テメエと話したいことがあるから午前十一時三十分までに来い、ただし誰にも言わずに来いよ』
用件を一方的に述べるなり、慧の電話は切れた。
明美は携帯をポケットにしまい、ため息をつく。
何の用件だか知らないが、嫌な予感だけはした。
獣道は夏祭りでも人気が無く、内緒話をしたい時には打ってつけの場所。
慧の声色からして、楽しい話ではない。
「何だって?」
「一人で獣道に来いだって」
明美がそう言ったとたんに、雪乃は明美の腕を掴んだ。
「行っちゃ駄目だよ! 危ないって!」
「でも行かなきゃいけないの、伊澄が怒ると怖いのは雪乃ちゃんも分かるよね?」
明美は困り顔の雪乃を見て、胸が痛んだ。
折角の楽しい夏祭りなのに、雪乃の笑顔が曇るのが悲しい。
「なら私も行くよ!」
雪乃の嘆願に明美は首を横に振る。
雪乃を危険な目に遭わせたくない。
「大丈夫、二時までには必ず戻ってくるから雪乃ちゃんは祭りを楽しんで」
明美は無理矢理笑った。
内心では不安で一杯だが、雪乃に心配掛けたくない。
午後二時には、理科室で陽彩と雪乃と共に創楽学園七不思議を発表することになっている。
明美も四苦八苦ながらも、七不思議に取り組んだ。その苦労を無駄にはしたくない。
どんな事があっても時間までには絶対帰ってくるつもりだ。
例え慧が立ちはだかったとしても。
「お願いだから先生やグロリア先輩には言わないで」
「明美ちゃん……」
雪乃は腕をそっと離した。
明美を止めることができないと悟ったからである。
「じゃあ、また後でね! 陽彩ちゃんにも宜しく伝えて!」
明美は雪乃に手を振り、単身で広場を後にした。


人が賑わう場所を抜け、明美が巳の池に差し掛かった頃に
明美の携帯が再び鳴り出した。
……誰かしら
疑問に思い、明美は携帯を見ると「虚首楼蘭」と書かれている。
一体何の用だろうか。
「虚首さん……?」
歩きながら明美は携帯に出た。
「はい、もしもし、星野ですけど」
明美は慧の時とは打って変わり、丁寧な口調で喋った。


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