天使は悩みました。
そして神様に伝えました。

「神様、ボクの分身を作って下さい、そうすればどちらの国も救うことができます」

願いを聞き入れ、神様は天使の分身を作り出しました。
しかしそれは、国を救うことには繋がらなかったのです。

「あれ……」
穂希は思わず声を上げた。
いつも通る道が工事中で、通行止めとなっている。
……どうしたの?
「ちょっとね、帰り道がふさがれてるの」
ため息混じりに穂希は言う。
憂鬱な気分だった。ここから回り道をしなければ、帰れないのだ。時間もかかる上に、柄の悪い人間も時折見かける。
地元の人でもあまり近づかないのだ。
「お母さんに連絡しておこう」
帰りが遅くなると母は心配する。そう思い穂希は携帯電話を鞄から出した。
『ゴメン、ちょっと帰るのが遅くなりそう、家に着くのは六時半になるから』
メールを送信し、穂希は足を動かした。

街灯が灯り、夕日から漆黒の色に空は変わる。
静かな住宅街を穂希は進む。今日の夕飯はビーフシチューが出る。それまでには帰りたい。
……疲れない?
「大丈夫よ」
エリュシオンの気遣いに、穂希は励まされた。
一人だが目に見えない存在がいるだけでも、心強く感じられる。
住宅街を抜けると、広い公園に出た。そこから騒がしい声がして、穂希は思わず足を止める。
公園には柄の悪い人々がたむろしていた。
……何か人の声がするね。
「通りにくいな……」
……どうして
「怖い人がいるからよ」
穂希は声を抑えて伝えた。
公園を避けて通ることはできない。なので素早く通り抜ける必要がある。
幸いにも集まっている人間は穂希に背を向けている。足音を立てなければ、無事に通り抜けられるはず。
穂希は慎重に進んだ。不良の真横を通る形で、彼等は話に夢中で気付かない。
緊張のため、口が渇き、心臓が高鳴る。
(このまま通れますように)
公園の入り口まで来た。もう少しで抜けられる。
……大丈夫?
「何とか」
穂希は小さな声で言った。
だが、穂希の思う通りに事は進まなかった。小石によって足を滑らせ思いっきり転倒したからだ。
「いったぁ……」
穂希は立ち上がろうとすると、痛みが足に走る。
見ると膝はすり剥き、血が流れていた。
「おい」
追い討ちをかけるかのように、背後からドスの聞いた声がした。
声からして、柄の悪い人間だということが直感で分かる。
穂希は恐ろしくなり、傷の手当てをしないまま、全速力で走り出した。

公園の曲がり角に入り、真っ直ぐの道を進み、T路地を左に曲がる。
背後からは足音は無いが、一秒でも早く逃れたかった。
穂希の横から閃光が近づき、それが車だと認識した瞬間に穂希の意識は飛んだ。

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