暑い日々が続く中、穂希は紀子と道を歩んでいた。
「夏休みどうする?」
紀子が訊ねてきた。
「私は家族と旅行に行くわ」
「それ良いじゃん! どこ行くの?」
「まだ決めてないけどね」
穂希は薄っすらと笑う。
「そういう紀子は計画たててるの?」
穂希が聞くと、紀子は鼻で笑った。
「各地の花火大会を見ようと思ってるんだ」
紀子は花火が好きで夏休みを利用してあちこちで開催される花火を見ることが楽しみである。
花火を写真で撮影してブログに上げているのだ。
「今年で最後だからね、悔いのないようにしたい!」
紀子ははりきっていた。
「紀子の写真、楽しみにしてるね」
「任せておいて!」
紀子が元気良く言うと、明るい笑顔を見せ、穂希もつられて笑った。

放課後に友達と楽しく喋れていることが、穂希は嬉しかった。
両親の仲は良好で、穂希が見ていても、幸せな気分になる。
大学進学もできて、前までの憂鬱感が嘘のようだ。
これも全てエリュシオンのお陰である。

……ぐあみに行くって言ってたじゃないか
エリュシオンが突っ込んできた。本を持ち歩くようになったため、彼とは常に会話を交わせるのだ。
「まだ秘密よ、それにぐあみじゃなくでグアムね」
穂希は声を絞って説明した。
……ふーん。
紀子が穂希の顔を凝視した。
「どうしたの? ぼーっとして」
現実に引き戻され、穂希は慌てて答えた。
「な……なんでもないよ」
「本当に?」
紀子は食い下がった。穂希の変化に気づいているらしく、時々聞いてくる。
もし紀子に本当のことを言ったら、ややこしくなるに違いない。
「大丈夫だって、夏の暑さで頭がくらくらしてただけよ」
穂希は紀子の肩を軽く叩く。友に心配をかけたくない。
「それより、喫茶店でお茶しよう!」
話の流れを変えるべく穂希は言った。

「じゃあね、明日学校でね!」
「気をつけてね!」
穂希は紀子に手を振って別れた。
空が茜色に染まる頃だった。
時間帯もあって大勢の人が歩いている。穂希もその中に紛れて進む。
……パフェってどんな味なの
エリュシオンが興味津々に訊ねる。
さっき穂希が頼んだいちごパフェのことが気になるようだ。
「甘くて、とても美味しい味よ」
……ボクも気に入るかな
「好きになるわ」
穂希は言った。
エリュシオンは穂希が住んでいる世界に興味があるようで、事あるごとに質問を投げかけてくる。
……いちごぱふぇってどんな形してるの?
その問いかけに穂希は少し考える。
こちらの世界を見れないようで、会話でしか知ることができない。
「器にイチゴやアイスクリームが乗ってるの、スプーンで食べるのよ」
穂希は説明した。
エリュシオンの設定は好奇心旺盛で、未知の物には目を光らせるというもので、こうして話していると気分がうきうきする。
弟が出来たような思いだった。
彼のお陰で幸せになれたのだから、尚更である。

……だが、幸せな時間は長くは続かなかった。

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