冷たくて、生活に必要な物しか揃っていない部屋のベッドで私は丸くなっていた。
ここは禊ヶ丘先生が、私のために用意した部屋で、生活する上で不便はないが、私としては早く出たい。

「輝宮、起きてるか?」
隣の部屋から、野々村くんの声がする。
私は壁に向かい、手を当てる。壁は非常に薄いようで、野々村くんの声がはっきりと聞こえる。
「大丈夫か」
「大丈夫よ、野々村くんこそ平気なの?」
野々村くんの問いかけに、私は不安を押し殺して言った。
私は野々村くんと一緒に禊ヶ丘先生に連れて来られ、私のことを調べられた。
私の力については当然だけど、他にも色々。
「平気だよ、こんなの大したことねーよ」
野々村くんの声にはいつもの張りがない。
いくら元気が取り柄の野々村でもこんな狭い場所に閉じ込められ、彼が憎む相手の顔を見続けるのはストレスが溜まる。
「ねえ……野々村くん」
「何だよ、シケた声出して」
「私たち帰れるよね?」
私は疑問を口に出す。
ここに来てから恐らく一週間は経つ、私達がいなくなって皆心配してるだろう。
だからこそ早く帰りたかった。
香菜に会って話がしたい、授業を受けたい。
私が知っている普通の日常に戻りたい。
「帰れるよ、ってか俺があいつをぶっ飛ばしてでも輝宮を連れて帰る、だから心配すんな」
「野々村くん……」
私は胸が熱くなった。
乱暴は駄目だが、野々村くんの心強い言葉が嬉しかった。
「突破口ができたら知らせる。また明日な」
「私も出られる方法が無いか探してみるね」
私は言った。
私なりに野々村くんの力になりたかった。
「無茶すんなよ」
「それはこっちの台詞よ、暴力はダメだからね」
私は釘を刺した。
野々村くんのことだから、禊ヶ丘先生を殴る可能性を否定できない。
「……分かってるよ」
野々村くんは数秒置いてから返答する。
すぐに答えなかったことが、心配だった。
「明日に備えてもう寝ようぜ、あいつの実験って結構ハードだしな」
野々村くんは言うと、足音が遠ざかる。
それ以降、野々村くんの声は聞こえてこなくなった。
私はベッドの中に潜り込んだ。

壁の向こうには、野々村くんがいる。
そう思うだけで、心強い。
私は眠るために目を閉じた。
明日は変わると信じて。

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