青が赤い空に変わり、五時を知らせるチャイムが鳴り響く。
公園のブランコでは二人の男女が座っていた。

「勤くんも大変なんだね」
勤の話を聞き終えた文美は呟いた。
文美は家で妹と些細なことでケンカになった上に、母が妹を庇う言動を取ったことが腹が立ち家を飛び出して公園に来たのだ。
そこに近所の子である勤が一人ブランコに座っていたのだ。
勤は文美とクラスが同じで、休み時間に遊んだりする等仲は良い。
勤は両親の口論を見るのが嫌になり公園に来たのだという。
「……慣れたけどな」
勤は静かに言った。
「強いね勤くんは……ウチでは亜月が生意気で腹立つんだよね」
文美は怒りで体が震える。
ケンカの原因は文美がタブレットで動画を見ていたのに亜月がちょっかいを出してきたのだ。
折角いい所だったのに邪魔された事が我慢できなかった。
しかも母は「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」と口走ったのだ。
亜月が先に手を出してきたのに、自分が悪者のように扱われる。
文美は亜月の方が可愛いのだと腹が立った。
「あんな家もう戻りたくないよ……」
文美は本気で言った。
亜月が生まれてから、亜月のことばかりに構うようになり、文美のことは後回しになった。
居場所の無い家など帰りたくない。
「オレは文美ん家が羨ましいよ」
意外な言葉に文美は驚いた。
「どうして」
「色々あるだろうけど文美は妹と仲良いだろ?」
勤は言った。
「そんな事ないよ、亜月とはケンカばっかりするし、亜月は『お姉ちゃんキライ』なんて言われるのよ」
文美は表情を曇らせる。
キライと言われると傷つく。
「でもその後は仲直りしてまた遊ぶだろ、それって仲が良いってことじゃないのか?
本当にキライだったら文美とは遊ばないだろ」
勤の言っていることは一理はある。
亜月が文美を嫌うなら一人で遊ぶだろうし、ちょっかいを出したりしないはずだ。
「……そうかもしれないけど」
「おばさんも心配してるんじゃないかな」
「それは無いと思う、お母さんは亜月の方が大切なんだよ」
文美ははっきり言い切った。
母は亜月ばかり構うので、心の底からそう感じる。
「文美だって分かってるだろ」
「な……何が」
「文美の妹はまだ小さいだろ、だから面倒見てやらなきゃならない」
勤の意見は最もだし、文美も痛いほどに理解していた。
亜月は生まれつきに体が弱く、母が心配するのも無理はない。
文美も文美で亜月の体調を気遣わないといけないのだ。
分かっているけど、それでも寂しいのである。
「勤くん、大人だね」
文美は感心した。
「わがままばかり言ってられないからな」
勤は言った。
家庭の事情のためか、勤の言動は大人びている。
二人が話しているその時だった。
「文美!」
聞き覚えのある声がして振り向くと母が立っていた。
母は文美の元に近づいた。
「お母さん……」
文美は母を見た。
「文美さっきはごめんね、お母さんちょっと言い過ぎたわ」
母は表情を曇らせて謝罪を口にする。
顔からして反省していることが伝わってくる。
帰りたくないと思っていたが、母の様子を見て少しは許せる気がした。
雰囲気を察し、勤はブランコから降りて文美に軽く手を振り公園を去った。
「もういいよ、お母さんも亜月のことで大変なんでしょ」
文美は優しく言った。
母も母で亜月にばかり構っていて文美に悪いと思っているのだ。
「文美……」
「それより早く帰ろう、亜月寂しがるから」

公園や近所が茜に染まっていく中、文美は母と一に帰った。
文美の表情は行きと違いすっきりしていた。

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