アタシは森の中を相方の進吾と共に駆け抜けていた。
背後からは複数の白衣の軍団が追いかけてくる。理由はアタシが抱いていている赤ん坊だ。
この子は地球の未来を左右する未知の力を秘めており、悪用されるのを防ぐためにアタシ達が所属している組織のボスから基地に行くように命令を下された。
その方がこの子の安全を確保できるからだと言う。
赤ん坊はアタシの手の中で静かに眠っている。いや、アタシがそうさせたのだ。
アタシの歌声には癒しの効果があるので、アタシが歌って聴かせたら数秒も経たずに眠りについたのだ。
アタシの真横に青白い光が走り、当たった木が黒く焦げて、白い煙を上げる。
風切り音がして、アタシは飛び上がると、真下に青白い光が通過し、隣の進吾は身を屈めて光を回避した。
「あいつら……レーザー光線を撃ってきたわ!」
アタシは声を出した。
狙いはアタシ達だろうが、当たったら危険だ。
「まともに当たったらやべーな」
進吾は言った。
すると進吾は腰に携えていた瓶を手に持ち、蓋を開けると、茶色い粒を三つ取り出した。
「これでも食らえ!」
立ち止まって進吾は茶色い粒を投げた。
茶色い粒は空中で分散し、地面がまるで意思を持った生き物のように蠢いたと思えば、白衣の軍団の前には茶色い壁が立ちはだかった。
突然の障害に、白衣の軍団は罵声を浴びせたり、壁を壊そうとレーザー光線を撃ったりしている。
「よっしゃ!」
進吾はガッツポーズを見せた。
進吾は様々な薬を調合できる。今回の土壁も彼の薬の一部だ。
「やるわね、進吾」
「まあな、それより早く逃げようぜ」
進吾は笑った。
進吾の薬の継続時間は一粒三十分なので、一時間三十分だ。
一刻も早く基地に行かないとならない。

「っていう夢を見たのよ」
アタシは目の前にいる友達の遥に夢の内容を話した。
遥は呆れ顔を浮かべる。
「正実……疲れてるんだよ」
遥は言った。
最近彼氏の進吾にフラれたことで、精神的に落ち込み、授業には集中できず、休みの時は泣いて過ごすほどだ。
非現実的かつ元カレが出る夢を見るのも精神疲労が原因かもしれない。
念のために言っておくが、現実のアタシは癒しの歌は唱えないし、進吾(名前を出すのも嫌だけど)は薬の調合はできない。
「カウンセリング受けたら?」
遥は忠告を促した。
アタシの通う学校には相談室があり、そこにはカウンセラーの人がいる。
「そうするわ、教えてくれて有り難う」
アタシは遥に礼を言った。

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