私は暗闇の中にいた。何度も叩いても扉を閉めた本人は開けてくれない。
やがて空腹で叩く気力も無くなった。お風呂に入ってないせいで、私の体からは臭いが出る。
暗い空間の中に腹の音と臭いが漂う。
惨めな気持ちが押し寄せ、私は身を縮めて泣いた。
私は何もやってないのに、どうしてこんな目に遭うんだろう。
思えば私の人生は辛いことばかりだ。
このまま死ねたらどれだけ楽になるか。

 

どれ位泣いただろうか、扉を開く音がして、私の体は跳ね上がる。
黒い世界から、一筋の光が差し込んだ。

 

「もう大丈夫だからね」

 

私に微笑み掛けるのはおじさんだった。

 

「夢か……」
私は何度も深呼吸をして自分を落ち着かせた。
私の周りからは静かな寝息が響く。時計を見ると夜中の三時。私を含めた子供は寝ている時間だ。
私が母親の元から引き離されてから約七年が経ち、今暮らしている施設に保護された。
施設に来た経由は、私の担任の先生が虐待を疑い通報し、私が住んでいた家に市の役員が訪れ、タンスに閉じ込められていた私を保護したのだ。
あれから母とは会っていない。いや、私としては会いたくもない。
また戻れば、あの悪夢のような日々に逆戻りするかもしれないからだ。
昔のことを思い返すのはやめよう、考えただけで眠れない。
私は目を閉じて眠ろうと心がけた。もう私を傷つける人間はいないと自分に言い聞かせて。
やがて私は眠りに落ちていった。

 

私を眠りの世界から呼び覚ますきっかけになったのは、良く知る声だった。
「おーい、起きろ!」
私の体が声と一緒に揺さぶられる。私は目を開くと想像通り、彼の姿があった。
茶色い髪に癖毛が印象的な男の子がそこにいた。
「野々村くん……」
私は目をこすり、彼の名を呼んだ。
彼は野々村陸くん、私と同じ施設で暮らすルームメイトで、付き合いも長い。
私が時折寝坊すると起こしに来る。
「朝メシ冷めちまうぜ、起きてねーのは輝宮だけだぞ」
野々村くんは私の顔を覗き込む。
「うん……」
「オレは先に食ってるから早く来いよ!」
野々村くんは言うと部屋から去っていった。
起き上がって、身支度を整えると、私は一階に降りた。

 

私の夢は終わり
現実の時が流れ始めたのだった。

 

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