ソルテは相方のふっくんと共に、六歳の女の子が住む家に忍び込んでいた。
「今年は遅刻しなくて良かったな」
「去年の反省を生かして、早めに動いたのよ」
ソルテは声を抑えつつ、朗らかに言った。
去年のクリスマスは二日遅れになってしまったが、今年はクリスマスに間に合った。
女の子の家以外にも十件ほど回り、プレゼントを届けた。
女の子の部屋を見つけ、音を立てないようにゆっくりと開く。
紫色を基調にした壁や絨毯はお洒落な印象を受ける。
「素敵な部屋だね」
「そうだな」
「……紫麻(しま)ちゃんだっけ? 名前の通り本当に紫好きだね」
「紫麻であってるぞ」
ふっくんの言葉に安心した。ふっくんはソルテと違い、人の名前は呼び捨てにする。
ソルテは「お邪魔します」と小声で言うと、忍び足で紫麻のいるベッドに近づいた。
紫麻は布団が体にかかっていない状態で、身を丸めて寝ている。
「紫麻ちゃんの布団も紫だね」
ソルテは布団に目を向けた。
「……紫麻が紫を好きになったのは、紫麻が作った紫の髪飾りを母親に誉めてくれたことがきっかけなんだとよ、それ以来紫麻は髪飾りを含むアクセサリー作りに夢中なんだとよ、色は紫が中心だとさ」
ふっくんは説明した。ふっくんはプレゼントを渡す相手のことを調べているのだ。
「今回のプレゼントもお母さんに絡んでるんだね」
ソルテは紫麻にあげるプレゼントを思い返した。
そして背負っていたふっくんをそっと床に下ろした。
「ふっくん、プレゼントお願い」
「おう、今出す」
ふっくんは、袋の口を開き、一つの箱を出した。プレゼントはふっくんの中に入れており、必要に応じて出す仕組みだ。
紫色の紙でくるまれた箱の中身は、アクセサリーを作る玩具だ。
ソルテは箱を持ち、紫麻の枕元に置く。
「これでアクセサリー沢山作ってね」
ソルテは眠る紫麻に声をかけ、毛布を紫麻にかけ直した。風邪をひかせないためだ。
ソルテはサンタクロース族で怪我はしても病気はしないので風邪はひかないが、人間の風邪は熱が出て大変だと聞く。
「お休み、紫麻ちゃん、そしてメリークリスマス」
ソルテはふっくんを背負い、紫麻の部屋を後にした。
こうしてソルテは無事にクリスマスプレゼントを全て配り終えることができたのだった。

クリスマスの世界にあるサンタクロース族の村に戻ってから二日後、ソルテは自分の家で
プレゼントをあげた子供や親からのお礼の手紙や贈り物を整理していた。
お礼や意見を伝えられるように「てんそうのこな」入りの小びんをプレゼントに付けているのだ。
「てんそうのこな」を物にかければソルテの家に到着する仕組みになっている。
「このクッキー美味そうだな」
ふっくんは袋の姿から、元のふくろうの姿になり子供からのプレゼントを眺めていた。
ふっくんはクリスマスの日のみ魔法で袋になる。
他のサンタクロースにも袋になるパートナーとなる動物が必ずいるのだ。
クッキーは二件目の女の子からだ。料理が好きで、ソルテはその子にお菓子の作り方の本をプレゼントした。クッキーは本のお礼だ。
「勝手に食べたらダメだよ」
「分かってるって」
ソルテは四枚目の手紙を読み終え、五枚目に差し掛かった時だった。
「あっ」
ソルテは見覚えのある名前に思わず声を出す。紫が好きな女の子の紫麻である。
「紫麻ちゃんからだ」
ソルテは歌い出しそうな声ではずんだ。ふっくんは翼をはばたかせてソルテの肩に乗る。
「紫麻か」
ソルテは軽く首を縦に振り、紫麻の手紙を開いた。
『サンタさんへ
クリスマスにプレゼントありがとう、てがみといっしょにいれたアクセサリーはサンタさんへのおれいです。しまより』
手紙からは紫と白のビーズで作ったブレスレットが出てきた。
「素敵だね」
「男女でも身に付けられるように気を利かせてるな」
「みたいだね」
ソルテはブレスレットをまじまじと見つめた。
お礼の手紙や贈り物は幾つか受け取ってきたが、ブレスレットは初めてだった。
ソルテはお礼をくれた子供や親に手紙を書いた。当然紫麻にもだ。

『紫麻ちゃんへ
お手紙と素敵なブレスレット有難う。大切にするね。紫麻ちゃんにとって良い一年になることを願っているわ
サンタクロースのソルテより』


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