雪がちらちらと降り、地面に積もっていました。
かすみちゃんは一人で雪遊びをしていました。雪を踏んだり草にかかった雪を落としたりと、雪の時にしかできないことに
かすみちゃんは楽しくて仕方ありませんでした。
「これでよし!」
かすみちゃんは自分の体より大きなゆきだるまを作りました。
目は石で、口は木をはめました。
そんな時でした。
「かすみちゃん、ご飯よ!」
かすみちゃんのママが、かすみちゃんを迎えに来ました。
今日のお昼ご飯は、ママが得意なナポリタンです。
「はーい!」
かすみちゃんはママと手をつないで帰りました。
帰る道の中、かすみちゃんは雪遊びの事をママに話しました。
ママはかすみちゃんの話をニコニコと笑って聞いていました。

「いってきまーす!」
「四時までに帰ってくるのよ!」
「はーい!」
お昼を済ませたかすみちゃんはママに手を振り、再び公園に向かいました。
そこでいつもと違った光景がありました。
なんとかすみちゃんが作ったゆきだるまがぴょんぴょんと跳ねあがっていたのです。
「待っていたよ、きみがくるのを」
ゆきだるまはかすみちゃんに近付きました。
かすみちゃんはびっくりしました。ゆきだるまが動くなど聞いた事がないからです。
「ゆきだるまさん……どうして動いているの?」
かすみちゃんは聞きました。
「ぼくが動けるのは、雪の魔法のお陰なんだ
きみが一人寂しそうだったから、雪の女王様が魔法をかけて動けるようにしてくれたんだ」
ゆきだるまは答えました。
かすみちゃんは二人の友達がいますが今は小学校が冬休み中で、家族旅行や風邪などでかすみちゃんと遊べなかったのです。
「一緒に遊んでくれるの?」
「もちろんだよ、時間が来るまで一緒に遊ぼう」
ゆきだるまは言いました。
かすみちゃんは一緒に遊んでくれる相手がいるだけで嬉しく思いました。
その後ゆきだるまと雪合戦をしたり、ゆきだるまが雪の滑り台を作ってくれて一緒に滑ったり、かくれんぼをしたりと
一人ではできない遊びを楽しみました。
ゆきだるまが動いているのは不思議でしたが、楽しい時間でしたので関係ありませんでした。
「あっ、もうこんな時間」
かすみちゃんは公園にある時計を見て言いました。
そろそろ帰らなくてはいけません。
「ごめんねゆきだるまさん、そろそろ帰らなきゃ」
「そうか、きみのママを心配させたらいけないよね」
ゆきだるまは寂しげに言いました。
「また明日も遊んでくれる?」
かすみちゃんは訊きました。
ゆきだるまは「うん」と返事をしました。
そしてゆきだるまの手を握りました。
「明日もこの公園で会おうね!」
かすみちゃんはゆきだるまに手を振り、公園から去って行きました。
かすみちゃんの心はうきうきしていました。二人の友達と遊ぶのと同じくらいに楽しかったからです。
かすみちゃんは今日の事はママには言えませんでした。大人のままに言っても信じてもらえないと思ったからです。
それからかすみちゃんは朝になるのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。ゆきだるまとの遊ぶ時間がそれくらい充実していたからです。

ゆきだるまと仲良くなってから三日目のことでした。
かすみちゃんは公園に行くとゆきだるまに聞きました。
「おはようゆきだるまさん、お腹すいてない?」
かすみちゃんは訊きました。
ゆきだるまが人間と同じくお腹がすいていないか気になったのです。
「お腹は空かないよ、ぼくはゆきだるまだから」
ゆきだるまは答えました。
ゆきだるまは人とは違うようです。
「そうなんだ」
「今日はぼくが住んでいる雪の国に連れてってあげるよ、ぼくの手をしっかり掴んで」
「わかったわ」
かすみちゃんはゆきだるまの手を握りました。
ゆきだるまの手は冷たくなく、ママの手のように温かかったです。
ゆきだるまは宙に手を掲げ、パチンと指を鳴らしました。
するととどうでしょう公園から一転し、一面雪の世界に来ました。
「うわぁ……」
かすみちゃんは周りを見渡して声を出しました。公園の木やフェンスがあった場所から
全て真っ白な世界になったからです。
ゆきだるまの力にかすみちゃんは感激しました。
「今日はぼくの住んでいる村に案内するよ」
ゆきだるまは言いました。
「ゆきだるまさんにもお家があるの?」
「あるよ、ゆきだるまの村があってぼくの仲間もたくさん住んでいるんだ」
ゆきだるまの話にかすみちゃんは目がきらきらと輝きます。
「ゆきだるまさんが沢山いるの?」
「そうだよ、かすみちゃんもきっと気に入ると思うよ」
ゆきだるまは再び指を鳴らすと、目の前に赤いソリが出てきました。
「これに乗って」
ゆきだるまは言いました。
かすみちゃんはゆきだるまが出したソリに乗りました。
ゆきだるまはかすみちゃんの後ろに乗り、少し力を加えるとソリは動きだしました。
ソリは徐々に速度が上がり、下り坂まで来るとますます早くなりました。
「わーい!」
かすみちゃんは楽しげな声を出しました。
ソリ遊びはしたことがなかったためです。空の雲が魚のように流れて行くようで、景色が目まぐるしく過ぎて行く様子が見ていて楽しいです。
かすみちゃんはママに車に乗せてもらいますが、車には無いワクワク感が味わえました。
ソリの速度がみるみると落ちて行くと同時に数々の建物が見えてきました。
「着いたよ」
ゆきだるまは言うと、ソリから降りました。
かすみちゃんも降りて建物を眺めました。円形だったり四角かったり、一つ一つ違いました。
「人間の女の子を連れてきたよ!」
ゆきだるまが呼びかけると、建物の中から次々とゆきだるまが現れました。
しばらくして、ゆきだるまの群れがかすみちゃんをまじまじと見つめました。
「わーほんとだ」
「人間の女の子って小さいんだね」
「かわいい!」
ゆきだるま達が一人一人かすみちゃんを見て感想を言います。
かすみちゃんは動くゆきだるまの群れにわくわくしました。
「この子はかすみちゃんって言うんだ。皆仲良くしてね」
ゆきだるまは言いました。
「はーい!」
ゆきだるまの群れは元気よく返事をしました。

ゆきだるまの群れととても楽しい時間を過ごし、かすみちゃんはゆきだるまの村を後にしました。
ゆきだるまの群れはかすみちゃんが帰るのを見送りました。
「あー面白かった」
かすみちゃんは元気良く言いました。
多数の雪合戦や、ソリ遊び、スキ―対決など一分たりとも退屈しませんでした。
「楽しんでもらえて良かったよ」
ゆきだるまは言いました。
帰り道、二人は坂道がゆるやかな階段をのぼって行きました。
行きはソリでも、帰りは使用できないためです。
「ねえ、ゆきだるまさん一つ聞いて良いかな」
かすみちゃんは疑問が湧きあがりました。
「ゆきだるまさんの村にはわたしのように人間ってくるの?」
「うん、ただし本当に小さな子供に限るけどね、大人は魔法を信じないからね」
「じゃあ、雪の女王様もゆきだるまの村に住んでいるの?」
「そうだよ、ただ雪の女王様は今は別の国に行ってていないんだ」
「へぇ……」
二人が喋っていると、かすみちゃんが最初に着た場所に着いていました。
「いつか雪の女王様に会えるかな、動くゆきだるまさん達に会えたように」
かすみちゃんは聞きました。
ゆきだるまと過ごす時間も素敵でしたが、動くゆきだるまを作った雪の女王にも会いたかったのです。
「かすみちゃんが良い子ににしていたらきっと会えるよ、雪の女王様は良い子が好きだからね」
ゆきだるまはかすみちゃんの手を優しく掴みました。
「あ、そうそう今日の事はママには内緒だよ」
「分かったよ!」
かすみちゃんはゆきだるまに言いました。
大人のママに言うと、魔法が解けてしまう気がしたからです。

「今日はとってもとっても楽しかったよ! ゆきだるまさんまた明日ね!」
元いた公園に戻ると、かすみちゃんはゆきだるまに別れのあいさつをしました。
「気をつけて帰るんだよ」
ゆきだるまは言いました。
かすみちゃんはゆきだるまに手を振りながら公園を後にしました。
今日あった出来事を正直にママには言えませんでしたが「友達と遊んだ」とだけ伝えました。
ママは楽しげにかすみちゃんの話を聞いていました。
明日もゆきだるまと遊べると思うと楽しみで仕方ありませんでした。

ところが次の日、かすみちゃんは風邪をひいてしまいベッドから動けなくなってしまいました。
「これじゃ外で遊ぶのは無理ね」
ママは体温計を見せて言いました。
「そんな……」
「ゆっくり休んでなさい、おかゆ作ってあげるから」
ママは言うと部屋から出て行きました。
かすみちゃんは大人しくママの言う事を聞く事にしました。
「つまんない……」
かすみちゃんは呟きました。
本やぬいぐるみで遊ぶより、外で遊ぶ方が好きです。
かすみちゃんは窓の外を眺めました。
「ゆきだるまさん、どうしているかな」
ゆきだるまが一人で公園で待っていると思うと、早く行ってあげたいと思いました。
今日治ると思っていた風邪ですが、三日たっても治る気配がありませんでした。
ママも心配になってかすみちゃんに言いました。
「明日まで続くようだったら病院に行きましょう」
「え……」
ママの言葉にかすみちゃんは嫌な気持ちになりました。
かすみちゃんは注射が大嫌いだからです。前に病院に行った時予防接種に行った時に感じた痛みが忘れられないのです。
ママは注射を打つとは言いませんでしたが、かすみちゃんにとっては病院は注射を打つ所だと思っているのです。
かすみちゃんはベッドに潜り込み、早く風邪が治るように祈りました。
どの位の時が経った頃でしょうか、かすみちゃんはいつの間にか眠っていました。
「かすみちゃん」
誰かがかすみちゃんに呼びかけました。
かすみちゃんはベッドから顔を出しました。
そこにはゆきだるまがいました。
「ゆきだるまさん……どうしてここにいるの?」
かすみちゃんが聞きました。
「雪の女王様が力を貸してくれたんだよ」
ゆきだるまはやんわりと言いました。
ゆきだるまはかすみちゃんに近付きました。
「風邪辛そうだね、ぼくが治してあげるよ」
「ゆきだるまさんが?」
「そうだよ、ぼくと遊んでくれた恩返しさ」
ゆきだるまは言うと、両手を伸ばしました。
緑色の光が出て、かすみちゃんの体を包みました。
するとどうでしょう、鼻水が止まり、のどの痛みが消えました。
「どうだい?」
かすみちゃんはベッドから立ち上がり体を動かしました。
さっきまで体がだるくて動かすのも辛かったのですが、今は何ともありません。
「治ったみたい!」
かすみちゃんははりきって言いました。
これでゆきだるまとまた遊べるし、注射を打たなくて済むからです。
「それは良かった」
ゆきだるまはほっとした様子でした。
ゆきだるまの体が白く光ったのはその直後でした。
「ゆきだるまさん、どうしたの?」
「ぼくは雪の国に帰らなくてはいけないんだ。かすみちゃんを治すために力を使ったからね」
突然のことにかすみちゃんは悲しくなりました。
「そんなの嫌だよ! 明日も遊ぼうよ!」
「ごめんね無理なんだ。雪の国の決まりだからね守らないといけないんだ」
「嫌だっ!」
かすみちゃんはゆきだるまに泣きつきました。
こんな別れ方は悲しいからです。
「かすみちゃん、よく聞いて」
ゆきだるまは言いました。
「ぼくとはまたいつか会えるよ、かすみちゃんがぼくのことを忘れなければね」
ゆきだるまの言葉に、かすみちゃんはゆきだるまの顔を見ました。
「ほんと?」
「ああ、本当さ」
「それはあさって?」
「流石にそれは無理だけど、次の冬が来る頃かな」
「次って……長いな」
かすみちゃんは指で数えました。
「大丈夫、あっと言う間だよ」
ゆきだるまは安心させるように言いました。
「じゃあ約束しよう、来年また会うって」
かすみちゃんは言いました。
別れるのは辛いですが、一年後に会えるなら悲しみが和らぐからです。
「うん、約束するよ」
かすみちゃんとゆきだるまはお互いの手を握りました。
ゆびきりげんまんをしたかったのですが、ゆきだるまの手は五本で無かったためです。
ゆきだるまはそっとかすみちゃんから離れました。
「また来年会おうね」
「絶対だよ!」
ゆきだるまが手を振り、かすみちゃんも振り返しました。
ゆきだるまが光とともに姿を消すまでずっと。

その後、風邪が治ったかすみちゃんは公園に行きました。
しかしゆきだるまの姿はありませんでした。
かすみちゃんは寂しい気持ちになりましたが、元気になった友達と、旅行から帰って来た友達と一緒に遊び寂しさは紛れました。
かすみちゃんは小学一年生から二年になり、友達も増えました。
それから時が流れ、雪が降る冬の季節になりました。
「じゃあねかすみちゃん、また明日ね!」
「うんっ!」
友達と別れ、かすみちゃんは家に帰るため雪道を踏みしめながら進みました。
雪の音を聞くのが楽しいのは変わりません。
友達からは「面白い歩き方だね」と言われます。
通学路に利用する公園の側を通ろうとした時でした。
「かすみちゃん」
誰かに呼ばれかすみちゃんは声がした方を向きました。
そこには一年前にお別れしたゆきだるまがいました。
かすみちゃんは嬉しくて笑顔がこぼれました。ゆきだるまは約束を守りかすみちゃんに会いに来たのです。
「また会えて嬉しいよ!」
かすみちゃんは言いました。

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