「輝宮先生、元気なお子さんを産んで下さい」
「まりあちゃんが戻って来るのを待ってるのですよ!」
嶋先生は花束を、知恵先生は数独の本を私に渡して来た。
私は産休に入るため、各先生から祝いの言葉とプレゼントを貰った。
「有り難うございます。また復帰したら宜しくお願いします」
私は笑った。
育児が落ち着いたら復帰する予定だ。
「たまには遊びに来てよ、アンタのいない学校なんてつまんないよ」
レア先生が私の背中を叩く。
いつもは明るい表情を絶やさないレア先生だが、今は曇っている。
「考えてみます」
私は前向きな言葉を口走った。
「輝宮先生」
私の真後ろから突然声がして、振り向くとそこには碓氷が立っていた。
声を出しそうになり、私は自分の口を塞ぐ。
碓氷先生は「ははっ」と苦笑いを浮かべた。
碓氷先生は何処からともなく現れ私を驚かせて(碓氷先生には悪気はないが)きたが、産休前の今日もやはりびっくりしてしまった。
「お子さんの洋服を作ってみたんです。良かったらどうぞ」
私は碓氷先生から袋を受け取り、中をざっと見てみた。
ベビー服が幾つもあり、どれも丁寧に作られている。
手先が器用な碓氷先生らしい。
「有り難うございます。碓氷先生」
隣で私と服を確認していた昇さんが礼を述べる。
「木之本!」
昇さんの首を王先生が回す。
昇さんは困惑していた。
「かがみんと子供を大事にしろよな! でねーと許さねーかなら!」
王先生は威勢良く言った。
「もう……その呼び方は止めて下さい」
私は恥ずかしくて頬を染める。
昇さんと結婚してからはやめていたのに……
まあ、今日くらいは許すとしよう。
戻ってくるとは言っても、かなり先の話になるから。
私は見慣れた顔を見て、寂しさを噛み締めた。

「じゃあ、俺は荷物を持って帰るよ」
昇さんは爽やかな笑顔で言った。
私はやりたい事があるので残ることにした。
「気を付けてね」
「まりあこそ、あまり無理するなよ、お腹の子もいるんだし」
昇さんは私のお腹を優しく撫でる。
昇さんは、結婚してから敬語を止め、私の名前を呼び捨てになった。
私は彼を呼び捨てにはできず「さん」付けである。
「分かってるわ」
私は言った。
去っていく昇さんを私は見届けた。

私は生徒指導室に向かうため、廊下をゆっくりと歩き出した。

 

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