「ねえ、まりあは彼氏作らないの?」
保健室の用事を終え、去ろうとした矢先に、レア・シード先生が訊ねてきた。
何故そんな話題が出てくるのか理解できない。
「何でそういう事を聞くんですか?」
振り向いて私は訊ねた。
レア先生は組んでいた両手足を解した。
「気になったからよ、まりあならいい男を捕まえそうだし」
レア先生は頬杖をつく。
「私はまだ恋人は作る予定はないですよ」
私は言った。
恋人よりも今は仕事の方を優先させたい。
するとレア先生は立ち上がり私に近づいて、指を差した。
「まーたそんな事言って、気になる人くらいはいるでしょ?」
レア先生の言葉に私はうんざりした。
本当にいないのに……
「王とかどうよ、しょっちゅう絡んでるじゃない」
「確かに絡みますが、業務進行のためです。それに、王先生を気にかけている生徒に悪いです」
私ははっきり言った。
王先生に好意を寄せているのは阿部さんだ。彼女の横恋慕をするなど失礼だ。
私の表情を見てレア先生は察したらしく「あんたも堅いよね」と呟く。
堅くて結構だ。
「じゃあ嶋とかどう?」
嶋先生は優しく、周りに配慮をする人だ。
加えて料理も上手いので私から見て付き合うには申し分ない。
レア先生は私が独身なのを気にかけて、恋愛のことを口にするのだろう。
でも私の意志は変わらない。
「嶋先生は私よりも他の女性が似合うと思います」
私は言った。
「そんなんじゃ一生恋愛できないよ、それでいいの?」
レア先生は不安を煽ることを口走る。
一生は大袈裟だと思うが……
「ご心配有り難うございます。でも私は結婚したくなったら行動を起こしますから口出ししないで下さい」
私は自分の気持ちを伝えた。
恋愛する、しないは自由だからだ。レア先生が何を言おうか自分で決める。

“あの事”が私の中から消えるまでは人を好きになるのは難しい。
私が恋愛をすることに対し恐怖心を抱くことになった出来事だ。
恋愛で傷つくのはもう御免だ。

私はレア先生に背を向け、保健室を去った。

 

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