「スピカ」
クラウは少女に話しかけた。
隣の少女は振り向く。
「何ですか?」
少女は首を傾げた。
彼女の瞳がクラウを見据える。
クラウは持参していた包み紙から、箱を取り出す。
「これを……受け取ってほしい」
クラウは 照れ臭そうに言った。
女の子に、プレゼントを渡すのは二回目だが、緊張する。
少女こと、スピカは箱を手にとった。
「何が入ってるんですか?」
「開けてみて欲しい」
クラウは促した。
スピカは箱の包装を丁寧にはずしていった。
箱からは甘い匂いがして、その匂いに、スピカは表情を綻ばせる。
「わあ……」
スピカは箱を開き、瞳を輝かせた。
中にはスピカが大好物のアップルパイが入っていたからだ。
「君が好きだって言ってたからな、バレンタインのお返しに作ってみたんだ」
クラウは胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
スピカからバレンタインデーにチョコを貰い、今日はホワイトデーなのでクラウがあげる番だ。
手作りなど初めてだったが、スピカの喜ぶ顔が見たくて必死になって完成させたのだ。
「食べても良いですか?」
「もちろんだ」
スピカは箱から一切れのアップルパイを取りだし、口に運んだ。
何度も瞬きをして、少しすると、スピカは笑った。
「美味しい」
スピカは嬉しそうに言った。
「可笑しな味はしないか?」
クラウは訊ねる。
スピカが無理して言ってるのでは無いかと思ったからだ。
「平気ですよ、先輩のアップルパイ美味しいです」
スピカはアップルパイを食べきった。
彼女の顔を見る限り、本当に満足しているようだ。

クラウにとってのホワイトデーは思い出に残る日になった。

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