「余計なお世話かもしれないけど、いい加減相手見つけたら?」
「まだ良いよ、そんな気になれない」
友人の美暖(みはる)の心配をよそに、私は暗い声で返した。
美暖は付き合いの長い友人で、事あるごとに連絡して私のことを気にかけてくれる。
美暖は結婚して二人の子供がいる。主人も優しく子供の面倒を見る人で私から見て美暖は幸せそうに見える。
美暖の気持ちは有り難いが、結婚のことは当分考えられない。
「……ごめん、夕飯の支度したいから切るね」
私は美暖に一言告げ、電話を切った。
胸に溜まった黒い感情を吐き出すように、私は「ふう……」と一息つき、ソファーに横たわる。
「気持ちは嬉しいけど、大きなお世話よ」
私はスマホに納められている美暖一家の写真を眺めて呟く。
皆の笑顔が眩しかった。羨ましくないと言うと嘘にはなる。
しかし私は結婚したくない、何故なら三年前に結婚寸前まで漕ぎ着けたけど、相手に問題があって婚約破棄したからだ。
三年前、四年間付き合っていた元彼からプロポーズされ私と彼の両親への挨拶を済ませ、新居も決まり、いよいよ入籍といった所で問題が発生した。彼の借金が発覚したのだ。しかもスマホゲームで課金したものだという。
彼がスマホゲームに夢中になっていたのを私は知ってはいたが、借金までしてやっていることは驚きだった。借金額は三百万、彼は私の前で土下座して謝罪し時間がかかっても返済するとは言ってはいたが、借金があったことと、彼が借金を隠していたのが許せなかった。
彼の借金が原因で私は結婚を止めようと決意した。
それ以来、私は男性とは付き合っていない、元彼のことが頭の中でちらつくためだ。隠し事が判明するまでは彼が好きだったし、死ぬまで一緒にいてもいいと思ったくらいだ。
……元彼は噂では未だに結婚できずにいるという。

適当に食事を済ませ、私は自分の机に向かった。
「よし、頑張ろう」
私は自分に言い聞かせて、介護職員初任者研修のテキストを開く。
介護関係の仕事に興味が湧いたのは半年前に私の祖母に介護が必要になったことがきっかけだ。
調べてみた所、介護の需要は高く、介護の資格があった方が年をとってからでも正社員になれるようで、今の所結婚する気のない私にはうってつけの職業だ。
加えて介護の仕事経験を積めば介護福祉士やケアマネージャーの受験資格も得られるので奥深い世界だと感じた。
介護は何かと過酷だと聞くが承知の上だ。しかし介護職員初任者研修が合格したら今の会社を辞めて、介護の仕事に転職しようと考えている。

結婚をする気が失せた私に新しい目標なので頑張っていきたい。

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