「あー疲れたぁ」
自室に到着するなり、アメリアはベットの上に倒れこむ。
スピカもアメリア同様に、ベットに横になった。
二人の少女は、討伐対の訓練を受けて、精神・肉体共に疲労が溜まっている。
部屋は暗いままで明かりをつけたいが、それすらしたくない、何気なくやる簡単な行動も今の二人には苦痛でしかないのだ。
「ずっとこんな調子じゃない?」
アメリアは消え入りそうな声でスピカに訊ねた。
入隊してから半年もの間、訓練と研修の繰り返しである。
「仕方ないよ、わたし達はまだ新入りなんだから、今出来るのは力をつけて実戦の時に先輩の役に立つことだよ」
スピカは言った。
アメリアは単調な日々の繰り返しに、嫌気が差し、入隊当時にあった希望も失せて愚痴を溢すようになっていた。
元に二人とも厳しい訓練により全身の筋肉が悲鳴を上げている。
すると、アメリアは体を起こし、むっとした表情になった。
「スピカは嫌にならないの? 毎日毎日まーいにち、上官にしごかれてちょっとしたミスでも怒鳴られてさ、私は挫けそうだわ」
アメリアの話を聞き、スピカは瞳を閉じる。
過ぎ行く日々が、辛いことの繰り返しで、アメリアの気持ちも理解できる。
ただし、スピカの場合は口に出して言わないのだ。
「わたしも同じ気持ちだよ、時々逃げ出したくもなるわ」
「やっぱり、そう言うと思った」
「でも我慢するわ、将来闇の集団と戦うためにも、逃げても強くなれないから」
スピカは力強く語る。
現状は確かに辛い、すぐにでも闇の集団と戦いたいとさえ思うが、今は強くなるために必要な試練だと考えて耐えるべきなのだ。
この世を去ったハンスや、他の同僚のためにも。
どんなに罵声を浴びせられても、決して後ろを向きたくない。
「貴方は強いのね、見習いたいわ」
「お世辞はよして、わたしだって毎日の訓練に慣れるのことで精一杯よ」
瞳を開き、スピカは苦笑いを浮かべる。
アメリアがスピカの側に来た。
「十分強いわよ、貴方の根性を私に分けて貰いたいわ」
アメリアは悪戯な笑みを見せた。
「しんどいのはこれからよ、くれぐれも辞めたりしないでね」
スピカは心配そうに言った。半年で五人が訓練の厳しさに耐え切れず討伐隊を辞めており、いずれもアメリアのように愚痴っていたからだ。
中には訓練の途中で脱走し、謹慎処分を受けた人間もいる。
これからもアメリアと共に成長したいし、闇の集団に立ち向かいたい。スピカはそう思っていた。
「やめないよ、私の彼氏を見返すまではね」
アメリアは片目を閉じる。
彼女が討伐隊に入隊したのは、付き合っている彼に自分が立派になって認めさせるためである。
「一人前になって、あいつをギャフンと言わせるわ!」
アメリアは手を握り、元気良く言った。
「私の話に付き合ってくれて有難うね、出会って半年だけど、スピカと一緒で心強いわ」
「こっちこそ」
腰を上げて、スピカはアメリアと同じ姿勢になった。
二人は同じ部屋になったことが、出会いのきっかけだった。性格は違えど気が合い良好な関係を築いている。
部屋には他に二人いるが、一番話しやすいのがアメリアである。
「明日も頑張ろうね」
「そうね、やってみるわ」
スピカが言うと、アメリアが明るく答えた。
現状が厳しくても、耐えて生きよう。
近い将来、役に立つと信じて。
二人の少女は明日に備えて眠りについた。
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