雷が轟き、稲光がアメリアの表情を照らす。
  音が合図と言わんばかりに、突如森の中に複数の気配が周囲に現れた。
  「これは一体何なの、 復帰祝いの続きのつもりかしら?」
 スピカは皮肉を込めてアメリアに問いかける。
 周りにある気配は、殺気に満ちており、スピカを歓迎しているようには見えない。
 「そうね、貴方をあの世に送るために集められた部隊って所ね」
 アメリアは冷たい眼差しを見せた。
 スピカは呆然とする。彼女の瞳は嘘をついているようには思えない。
 死の宣告を突きつけられ、スピカは言葉を失う。
 頭の中には思考がぐるぐると渦巻く。  
 何故仲間に命を狙われなければならないのか? どうしても受け入れることができない。
 「……何でそんな事を言うの? 訳が分からないよ」
 震える唇で、スピカは言葉を紡ぐ。
 さっきまでは楽しく一緒に食事をしていた。今の光景は何かの間違いだと信じたかった。
 こうして掌を返したように変わった友人が、信じられなかった。
 「答えは簡単よ、貴方が討伐隊に対する危険分子を持っているから」
 アメリアはすらすらと淀みなく言った。
 「それも、今すぐに始末しなければ世界の平和を乱すほどのね!」
 厳しい一声と共に、アメリアが人差し指から細長い光線を出し、左腕に当たる。
 スピカは熱さによって、表情を歪める。
 「見てみなさい」
 アメリアに言われるがまま、スピカは恐る恐る左腕を見る。
 そこには、今まで無かった闇の集団の一員の証が刻まれていた。
 スピカは体が凍りつく思いだった。何故ならこの証があるという事はアークに闇の集団の一員として認められたということだ。
 すなわちスピカは討伐隊として敵となってしまったのだ。
 スピカは足元がふらついた。夢の中と同じ展開になったからだ。
 「きっとチェリクを庇った時にできたのでしょうね、それ以外に考えられないわ」
 アメリアは人を見下すような態度をとった。
 「これはアークが仕組んだ罠よ、あなたも分かるはずよ、前にもあったじゃない」
 スピカは誤解を解こうとアメリアに訴えかける。
 過去にも闇の集団の陰謀で、討伐隊の内部分裂が発生し崩壊の危機にさらされたが、どうにか持ち直し討伐隊は存続している。
 スピカとアメリアも、その時在籍していたので、今でも記憶にはっきりと残っている。
 「あったけど、あれは闇の集団のスパイが潜んでいたんじゃない、今は討伐隊の人間、まるで次元が違うわ」
 「お願い、わたしを信じて! わたしは闇の集団の一員にならない!」
  スピカは胸の中の思いを吐き出した。
  アメリアが豹変しているのは、過去の繰り返しをしているために、思考が混乱しているからに違いない。
  過去に討伐隊のトラブルが起きた時も、今のようにずい分酷い言葉を投げかけてきたからだ。
  現在では、なるべく普通どおりに接しているが、心には大きなわだかまりが残っている。
  スピカの迷いを見抜くように、アメリアは口を開いた。
 「貴方の言葉が嘘じゃないというのは分かっているわ、でもね貴方のことを信じられなくなる時があるのよ、特にそう思ったのが、アークが貴方に魔法をぶつけて去る時だった」
  アメリアは瞳を細める。その目は鋭く、暖かみの欠片を感じさせない。
 「アークは貴方に暖かい眼差しで見つめていたの、私やチェリクには冷たい眼差しを向けていたのに」
 アメリアは自らの武器である杖を前に構える。
 すると、周囲の殺気が一段と深まった。
 「貴方はもう闇の集団の一人よ、しかもアークに特別扱いされている。アークの呪文で何人も仲間が死んだのに貴方だけが生き残っているのが何よりの証拠だわ!」
 武器を出す友に、スピカは衝撃を受ける。
 心が酷く痛んだ。今のアメリアには何を言っても伝わらないからだ。
 スピカは苦虫を噛んだような表情を浮かべ、護身用に持参していたトンファーを抜く。
 ハンスの命を奪ったのをきっかけに、武器を変えたのである。
 「……頭に血が昇ると見境がつかなくなるあなたの癖は直さないといけないわ」
  スピカはトンファーをしっかり握り締める。
 「それが遺言かしら?」
 アメリアはスピカの言葉を無視した。
 本当は戦いたく無いが、アメリアの様子を見ると、そうも言ってはいられない。
 「遅くなったけど、戦闘開始にしましょ」
 アメリアは小さく微笑んだ。
 雨はまだ止む事が無かった。
  
 森の中をチェリクは歩き続けていた。二人の先輩を探すために。
 アメリアの態度が可笑しかったので、不安を覚え二人の後をついっていったのだが、途中で見失ってしまったのだ。
 「スピカさん……アメリアさん……どこにいるんですか?」
 木に寄り掛かり、チェリクは荒々しく呼吸をする。
 彼の声に答えるものはない、ただ雨音だけが響いているだけだった。
 「休んでいられない、急がなきゃ」
 疲れた体に鞭を打ち、チェリクは森の中を進んだ。

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