双子が遊ぶ倉庫の中には、大きな箱が堂々と置いてあった。
箱には鍵が掛かっており、ハンスが中を見たいと、スピカにお願いしてきたのだ。
スピカは何度か駄目だと語る。箱を開くと恐ろしいことが起きる……と。
しかしハンスは中身の分からない箱の中への好奇心が強く、しつこくスピカに食い下がってきた。
スピカは悩んだが、ちょっと開けるだけなら問題無いと思い、ハンスに「本当に少しだけよ」と警告する。
ハンスは大はしゃぎしていた。
スピカは人の目を掻い潜って、箱の鍵を持ち出した。
「本当に少しだけよ」
スピカは改めて忠告した。
「有難う」
ハンスはにっこりと笑う。さっきの我儘が嘘のようである。
スピカは鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと動かそうとした。
……と、その時だった。
スピカの脳裏におぞましい光景がよぎった。
箱を開いた瞬間、黒い物体がハンスの全身に絡みつき、ハンスは動かなくなってしまったのだ。
光景はまだ終わらなかった。自分はハンスを刺し、自分は返り血で肌や服に付着する。
その後、ハンスを死なせたことに対する罪悪感のあまり、自分も自害する。
目まぐるしく光景が流れると、スピカの手はガタガタと震え、両目には涙が一杯になった。
「……どうしたの?」
ハンスが声を掛けてきた。
優しいハンスの眼差しが、スピカに向けられる。
スピカはハンスに抱きついた。
「姉ちゃん?」
「ごめん……この箱開けられない……」
スピカは涙声で言った。
「開けたら……ハンスが死んじゃうんじゃないかって……思って……ごめんね……」
途切れ途切れでスピカは語る。
恐ろしい光景はもう見え無くなったが、心には焼き付いている。
ハンスに手を掛けるなど、夢だけでいい。
「僕こそわがまま言ってごめん」
スピカの気持ちを察し、ハンスは謝罪した。

双子は倉庫を出て、外で遊ぶことにした。
倉庫で遊ぶ気になれなかったからだ。
その後、倉庫にあった箱は売りに出され、二度と双子が見ることは無かった……

それから十一年後。
スピカは生まれ育った屋敷から出て行くことになった。
「本当に良いの?」
見送りにはハンスが来ていた。
本来なら、スピカは家の跡取りとして残り、ハンスは城の騎士になるために剣術を学ぶ。
しかしスピカはハンスが剣術が全くできず騎士に向かないことを知り、父にハンスの将来を考え直すように説得したのだ。
説得の結果、スピカが城の騎士となり、ハンスが家の跡取りとして残ることになったのだ。
「わたしが決めたことだから、あなたは気に病むこと無いのよ」
スピカは自信有り気に語る。
「騎士の世界って厳しいんだよ、姉さんにできる?」
「大丈夫よ、何とかやってみるわ」
ハンスの心配をよそに、スピカは明るく答えた。
騎士は男が多く、女が少ない。
なので差別などがあっても不思議ではない。
「あなたも頑張って、立派な家の跡取りになるのよ」
スピカはハンスの肩を叩く。
双子はこれから別々の道を歩む、手紙は書くが、二人で会うことも少なくなる。
寂しいが、これも家の方針なので仕方ない。
「スピカ、そろそろ時間よ」
母の声がかかる。
馬車の準備ができたのだ。
「いけない……そろそろ行かなきゃ」
スピカは馬車のある方角を見て声を上げる。
「姉さん、気をつけてね」
「あなたもね」
スピカはハンスを抱擁した。

双子は別々の道を進む事になった。
それでも双子の絆は切れる事はないだろう……


戻る 

inserted by FC2 system