月の輝きが、母と娘を見守る。
限られた静かな時は、まだ続いていた。
「あなたを探すために、ずっと旅をしていたの、手がかりを探すのは大変だったわ
あなたの父さんも今は亡くなったし、ハンスも行方不明だし……やっとの思いであなたの手がかりを掴んだのは最近だった。
三年ぶりに見たあなたは立派に成長していた。生きていて良かったと安心したわ」
スピカは母の話に耳を傾けていた。
書き置きも残さず、行き先も告げずに家出をした娘をたった一人で探すのは、想像を絶する苦労があったに違いない。
白髪も、やつれた顔も、全ては娘の姿を見るため。
ハンスを探すための苦労、手がかりが無かった時の落胆……
母も同じ思いをしたのだろう。
スピカの胸は痛んだ。
「あなたを見つけてから、どう声をかけていいか分からなくて悩んだの
そんな時だったわ、あなたが今夜ここに来たのは
……あなたには悪いと思ったけど、後をつけさせてもらったの、案の定ハンスもいたけどね」
母の話しからして、スピカを見つけたのは良いが、遠くから見ていることしかできなかった。
娘を傷付けた罪悪感が、母の行動を抑えていたのである。
「スピカ、ごめんね、母さんが悪かったわ」
「……」
どう答えて良いか分からずスピカは悩んだ。
母と一緒に過ごしていた頃は心を傷付けることを口走っていたが、今はスピカの窮地を救ってくれたし、怪我の手当てをしてくれた。
母が娘を思う気持ちに嘘は無いだろう。
スピカは視線を泳がせ、この場に相応しい言葉を搾り出そうとした。
その時だった。
「私をのけ者にするなんていい度胸じゃないか」
背後から殺気が段々と近づいてきた。スピカはその方向を見ると、ハンスが冷めた目線でこちらを眺めていた。
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