『お姉ちゃん、お誕生日おめでとう、これあげるね』
緑は明美に小さな箱を差し出した。
『何これ』
『開けてからのお楽しみだよ』
明美は緑から箱を受け取り、リボンを解き、箱の中を開く。
そこには、銀色の月を象ったペンダントが入っていた。
『わぁ……綺麗』
明美はペンダントを手に取り、思わず笑顔が零れる。
妹のプレゼントは毎回楽しみだが、今年は格別である。明美はペンダントを首に付けた。
『気に入ったかな?』
緑は首をかしげる。
『有難う! 大切にするね!』
明美は元気良く言った。

明美は妹から貰った銀色のペンダントを見つけだし、甘い記憶に浸っていた。
大学進級に伴い、一人暮らしをするため、持って行く物を整理している時に発見したのである。
「懐かしいな……」
そう呟くと、明美はペンダントを首につける。
窓まで移動し、空を眺めた。
満点の月は柔らかな光を放ち、空を輝かせる。
「緑、今日も月は綺麗だよ」
明美は優しく語りかけた。
妹の緑は数年前に不慮の事故に遭い、この世を去ったのだ。妹のいない家は静かになり、食事の時ですら、重苦しい空気が流れた。
そんな雰囲気に耐え切れなくなり、明美はあえて遠い大学へと進級することを決意した。明日には家を出て、新しい家に移っている。
「あんたがいなくなってから、ずい分変わっちゃったんだよ……」
明美はペンダントに指を当てる。
ペンダントも緑のことを思い出すため、ずっとしまっていたのだ。
ペンダントがきっかけで甘い記憶だけでなく、徐々に封印してきた苦々しい記憶をも蘇らせた。
その記憶に、明美は思わず表情を歪める。
それは緑が事故に遭う当日の朝だ。些細な理由で緑と大喧嘩をしたのだ。母も仲裁に入ったが、この日だけは何故だか明美は引き下がれなかった。
最後に明美は緑に言ってしまった。
『あんたなんか大嫌い! もう顔も見たくないんだから!』
緑は泣きそうな顔をするが、明美は早足で学校に行った。
学校から帰っても、緑が謝るまで口なんか聞かないつもりだった。その日の午後に緑の事故の知らせを受けて病院に駆けつけたが、既に息を引き取っていた。
丁度、今日のように優しい月が出ている時だった。
過去の痛みに、明美はうずくまり、涙が止まらなかった。
「ごめんね……」
明美は声を押し殺して嗚咽する。
酷い言葉を投げかけなければ、緑が事故に遭わなかったのでは……と後悔をせずにはいられなかった。両親にも慰められたが、消えるものではない。
緑に直接謝れず、とても悲しかった。

腫れた目のまま、明美は布団に潜った。
緑と過ごした思い出を胸にしまって……


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