空は青く雲一つ無く綺麗だった。昼食をとるなら外でも問題なさそうだ。
……俺たち天使も例外ではない。

「いっただきまーすっ!」
空が見渡せる屋上に青髪の女子の元気な声が響き渡る。
そして、女子は三段の弁当箱にある食べ物を食べ始めた。
「良い食べっぷりだね」
「だってお腹空いたんだもん!」
女子の隣にいる茶髪の男子が薄っすらと笑っていた。
「……ラフィがいつも通りならそれで良いじゃないか」
俺は持参していたサンドイッチを一口食べる。
話すのが遅れた。俺の名前はナルジスと言う。
勢い良く食事を食べている女子がラフィことラフィアで、笑っているのがリンだ。
ちなみにラフィアのことをラフィと呼ぶのは彼女と親しくなった人にしか許されない。
俺たち三人は友人同士で天使の敵と見なされていた黒天使と共闘し、諸悪の根源を打ち倒して、平和を取り戻した。
そして天界に帰還した俺たちは学園では英雄扱いだった。メルキ先生の話だと、俺たちは天界の歴史を変えるくらいの偉業を成し遂げたという。
俺たちは学園内の生徒から感謝されたり質問されたり、一緒に写真を撮ってくれと言われもした。
しかし時間が経つにつれ生徒の熱気も落ち着き始め、帰還してから二か月経った今では、三人揃って食事をとれるくらいの余裕ができた。
ラフィは背中の白い羽根を上下に素早く動かしながら食べ続けている。今は一段目の弁当箱を空にして二段目に入っている。弁当が美味しいようでご機嫌な証拠だ。

「あれから二ヶ月か」
リンは食事をする手を止めて呟く。
「俺も全く同じことを考えていたよ」
俺はリンの話に同調した。
「ベリル達はどうしてるかな」
リンは言った。ベリルとは黒天使の一人で、俺たちと共闘した仲間でもある。
ベリルと俺の出会いはお互い最悪だったが、行動を共にしていくと、良い所も見えてきて最終的には友人関係になれた。
今回の件で天界の秩序を守る治安部隊も黒天使への見方を改め、黒天使に関する法律を見直した。
黒天使との連絡や交流も徐々にではあるが緩和されている。
リンの話を聞く限り、ベリルからの連絡は無さそうだ。
「元気にしてるんじゃないのか、気になるなら手紙でも送ってみたらどうだ」
「そうだな」
リンは少し明るく言った。
黒天使と行動を共にしていた時も、ベリルとは仲が良かったので、連絡はするだろう。
言い出した俺もベリルに手紙を送ってみるか。
「わたしの元にはコンソーラちゃんから手紙きたよ」
食事と羽根を動かすのを止め、ラフィは言った。
コンソーラも黒天使の一人で、彼女はラフィアに命を救われて以来、ラフィアを崇拝している。
「本当か?」
「うん、最初に手紙が来た時はちょっと驚いたけどね」
ラフィは苦笑いを浮かべた。つられてリンも苦笑する。
「どうした。二人して」
「物凄い量の便箋が来たの。それを見たわたしやリンくんやお母さんも困ったよね」
コンソーラらしいなと思った。ラフィを想うあまり、暴走する傾向があるからだ。
「変わってないな、コンソーラも」
「かもね」
ラフィアは俺の言葉に答えた。
こうして、俺たちは他愛もなく平和な時間を過ごすのだった。


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