「おい、起きろ」
私の眠りを覚まさせるきっかけになったのは、私が良く知る声でした。
私は目を開くとそこにはベリルさんが立っていました。
「あっ……ベリルさん……おはようございますぅ」
私は目をこすりながら言いました。ベリルさんが私の家にいることは珍しくありません。
私の家には私が信頼できる人にしか入れない呪文がかかっています。ベリルさんは私が信頼できる人だからいるのです。
「おはようございますぅ、じゃねぇよ、今日は天界に行く日だろ」
ベリルさんは少し怒ったように言いました。天界という単語に、私の眠気が一気に飛びます。
ラフィアさんを含む天使達に会うために月に一度会う日を設けています。それが今日です。
本当なら毎日でも会いに行きたいですが、私にもやる事がありますので、月に一度となっています。
「あああっ! すっかり忘れてましたよ! このままじゃラフィアさんに会える時間が短くなりますよぉ!」
私は思わず叫んでしまいました。
この所多忙だったことも原因でしょう、しかし天界に行く日を忘れていたのは私にとって恥ずべきことです。
どうして頭の中から抜け落ちていたのか分かりません。
「落ち着けって、オマエがそう言うと思って早く起こしに来たんだ」
ベリルさんは私の部屋に付いている時計に指を向けます。時間は私達が天界に行くより一時間も早いです。
ベリルさんは戦いだけでなく、相手への気配りができる人だなと感じました。ベリルさんの気持ちが嬉しかったです。
「有難うございます! ベリルさんには一生感謝したいですよぉ!」
「大げさだな、それより早く支度しろよ」
「ええ! 一秒でやります!」
「……無茶すんなよ」
ベリルさんが若干私に対して引きぎみでしたが、気にしないことにしましょう。
私は高まる気持ちの中、急いで支度をしました。ラフィアさんに会いたい一心です。
流石に一秒では出来ませんでしたが、五分で準備が終わりました。
「準備できました。いつでも出発できますよぉ」
私は大量の荷物が入ったナップザックを背負って言いました。荷物の大半はラフィアさんを含む私が知る天使達に渡すお土産が含まれています。
「すげぇ荷物だな」
「だってラフィアさんに会うんですよ、失礼はできませんからねぇ」
「まあ良いや、早速行くか」
「ええ! 喜んで!」
私はベリルさんの後を追う形で家を出ました。

私とベリルさんは空を飛んでいました。移動呪文を使えばあっという間にラフィアさん達のいる天界に着くのですが、ベリルさんが移動呪文を好まないので、天界へは毎回飛んで向かいます。
元々黒天使と天使は対立関係にありましたが、二年前にラフィアさんを含む天使達と、私達黒天使が共闘し、対立関係の元を作った元凶を打ち倒しました。お互い無事では済まず大きな犠牲を払ってです。ベリルさんと私も生還はしたのですが、私は無傷ですが、ベリルさんの体には戦いの傷痕が残っています。
話は戻します。共闘がきっかけとなり、黒天使の見方が大きく変わり、黒天使避けに張られていた天界にある結界が取り払われたのです。これで黒天使は自由に天界を行き来できるようになりました。
人間達が黒天使を見る目も変わりつつあります。
しばらくの間飛んでいると、天界が見えてきました。
「わぁ……久しぶりですねぇ」
私は呟きました。
「あんまはしゃぎ過ぎんなよ」
「分かってますよ」
ベリルさんに言われ、私は少しむっとしました。
だって連絡は取り合ってるにしても、一ヶ月もラフィアさんに会って無いんですもの。
私とベリルさんは天界の門を潜り、天界に入りました。ここは都市部と呼ばれる場所で、店や学校があったりと、天使達がにぎわう場所です。
さりげに黒天使も飛んでいたりしています。
私達が噴水のある広場に来た時でした。
「ベリル! コンソーラ!」
一ヶ月ぶりに聞く声が私達の頭上から聞こえてきました。
二人の天使が私達の元に降りてきました。リンさんとユラさんです。リンさんが私の前に、ユラさんはベリルさんの前です。
リンさんはラフィアさんの幼馴染みで、昔から仲が良いです。ユラさんはリンさんの弟さんです。
二人とも背が伸びて成長している感じがすると同時に、 私達黒天使と共闘した天使です。
「リンさん、ユラさん、久しぶりですぅ」
私は明るい声で言いました。
「コンソーラも元気そうだね」
「ええ……お陰さまで」
リンさんに言われ、私は言葉を返しました。
「ベリルはいつも早いんだな、テレパシーで連絡入った時は焦ったぞ」
ユラさんは言いました。天界の神様が天使と黒天使がテレパシーで連絡を取り合えるようにして下さったんです。
昔からは考えられない進歩です。ラフィアさんとも連絡を取り合えた時は嬉しすぎて三日間は眠れませんでした。
「いけなかったか?」
「いや、良いんだけどな」
「ところで……」
ベリルさんとユラさんの話の間に入る形で私は言いました。
「ラフィアさんはどこですかぁ?」
私は訊ねました。ラフィアさんがいないのは正直悲しいです。
「ラフィならクローネお姉さんのいる病院だよ」
リンさんは言いました。クローネさんとはラフィアさんのお姉さんです。
クローネさんは様々な要因で天使から黒天使に変貌し、二年前の共闘の元を作りました。
言い方は悪いですが、諸悪の根源です。
戦いの末にクローネさんは天使に戻り、今は眠り続けています。天界のお医者様の話だとクローネさんが起きる確率は限りなく低いそうです。しかし彼女が犯した多くの罪がありますので本来なら治安部隊の裁きを受けないとなりませんが、眠っている以上どうにもならないので治安部隊の計らいで、天界の病院にいます。もし彼女が目を覚まし、問題が無ければ裁かれることになるでしょう。
「行きましょう、ラフィアさんに今すぐ会いたいです!」
私ははきはきと言いました。
「オレはここから別行動をさせてもらうぜ」
ベリルさんは言いました。恐らくナルジスさんに会いに行くのでしょう。
ナルジスさんも共闘に参加した天使で、ラフィアさんとリンさんとは仲が良いです。
初め会った頃はベリルさんとは険悪な関係でしたが、些細なことがきっかけとなり、二人は仲が良くなり始め、最終的には友人関係となったのです。
「ナルジスさんに宜しく伝えて下さい」
「ああ、言っとくよ、じゃあまた後でな」
ベリルさんは言うと黒い羽根をはばたかせて、空を飛んでいきました。
「僕達もラフィの元に行こうか」
リンさんは言いました。
「はい! 行きましょう!」

私はリンさんとユラさんと共に病院に来ました。何度来ても思いますが大きな建物です。多くの天使たちの姿があります。
怪我や病気を治す癒しの呪文があるなら病院は無くても良いじゃないかと思われがちですが、癒しの呪文でも治せない怪我や病気があるので天界にも病院があるのです。
私達は病院の入り口を潜りました。羽根を使って病院の窓から入るのは、防犯のため強力な呪文がかかっていてできません。ユラさんがやろうとして痛い目に遭いました。羽根を使わず普通に入るのが無難です。
ちなみに病院内はルールを守れば飛び回れます。私達は羽根をはばたかせ、ラフィアさんのいる病室へ向かいました。数分後、私達はクローネの名が書かれたプレートを見つけ、リンさんが扉を優しく叩きました。
「ラフィ、入るよ」
そして私達は病室の中へと入りました。


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