病院に運び込まれたラフィア先輩は治療を受けました。その結果ラフィア先輩の体は治り、意識も取り戻しました。
ラフィア先輩を治療した先生の話だとラフィア先輩の背中の羽根が赤くなったのはアトの実が原因だそうです。アトの実はドラゴンが食べる分には問題ないですが、私たち天使が実の中身に触れると発疹がでたり、ましてや食べたりすると命を落とすことがある危険な果実だそうです。
犯人の目星はついていました。ヴィーヴ先輩です。彼女の言動や行動や、ドラゴンの知識を持っていれば彼女の仕業だとすぐに分かりました。
私の推測通り、ヴィーヴ先輩が保健室の破裂事件を引き起こしたと、彼女は先生の前で自白したそうです。これも巧妙な手口で、音もなく保健室に近づき、ラフィア先輩の気配を探り、移動呪文を使いアトの実を飛ばして爆発させたそうです。
ヴィーヴ先輩のことも分かりました。彼女は元々は思いやりに満ちた人で、ラフィア先輩や他の部員にもお菓子を差し入れしたりしていたのです。しかし一年前に兄を失ってから精神的なショックからか態度が急変し、今のような攻撃的な性格になったそうです。
加えて私への暴行した日から約三日後は亡くなった兄の命日で、彼女はいつになくピリピリしており、もう一人の先輩も休んでいたため、ヴィーヴ先輩とラフィア先輩の二人きりとなっていて、私が部室に無断で入ったことにより、彼女の鬱憤が私に向けられることになったのです。保健室でラフィア先輩を狙ったのは前からラフィア先輩が気にくわなかったためです。
一連のヴィーヴ先輩の行きすぎた問題行動は、彼女の家庭環境を考慮しても、あまりに身勝手で、なおかつ私やラフィア先輩の生命の危険を脅かしたこともあり、更正施設に送られることになりました。
またドラゴン育成部の顧問の先生も退部者の続出や、ヴィーヴ先輩の問題を放置したとされ顧問から外されたそうです。
これでドラゴン育成部の内部が改善されることを願いたいです。
一方私はと言いますと、部室に無断で侵入した事を反省文にまとめるように先生に言われました。これはこれで仕方ないです。ヴィーヴ先輩からの仕打ちに比べればマシです。
ユラくんにはボロボロになった透明マントのことを散々言われました。勿論弁償はしましたけどね。
ラフィア先輩は治療のお陰で、二日後には退院し、いつも通りに学校へ来ました。ラフィア先輩の元気そうな様子に、私は安心しました。

その日の放課後、私はラフィア先輩と話をするために食堂に呼び出しました。
「急に呼び出したりしてすみません」
ラフィア先輩が私の前に座るのを確認すると、私は言いました。
「いいよ、今日は時間あるしね。ドラゴン達の面倒は先生が見てるから」
ラフィア先輩の声は少し寂しそうでした。
ドラゴン育成部はトラブルがあったため、一週間の活動停止期間が決まったそうです。当然ラフィア先輩はドラゴン達の面倒は見られません。私が部室に侵入した時、ラフィア先輩は懸命にドラゴンの世話をしていて、ドラゴンのことを大切にしてるんだなと思いました。
今回の件で真面目にやってきたラフィア先輩や関係のない部員が一番被害を受けたと感じました。
「あ、言っておくけど、今回の件はショコラさんのせいじゃないから、ヴィーヴさんの問題を放置していたわたし達部員の責任だよ、だからショコラさんは気に病まないでね」
ラフィア先輩は私の心を見抜いたように言いました。今回の件は私が原因で思っていたからです。ラフィア先輩に慰めてもらうと、気持ちが落ち着きました。
ラフィア先輩は私が用意した紅茶を一口飲みました。
「美味しい! これはショコラさんが淹れたの?」
「はい、そうです」
「ショコラさんは紅茶淹れるの上手だね」
ラフィア先輩は上機嫌に口走りました。
紅茶の葉やティーポットは家から持参し、お湯は食堂にあるものを使いました。 ラフィア先輩の明るい顔を見て淹れた甲斐があったと思い嬉しくなりました。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
私は少し笑いました。
「体の具合はどうです?」
「すこぶる絶好調だよ! それにショコラさんが無傷で安心したよ」
ラフィア先輩は明るく言いました。
去年のハロウィンの時もリン先輩やリン先輩の母親に持っていくクッキーを守るために黒天使の攻撃で負傷し、今回は私を守るために負傷……ラフィア先輩は人のために自分を犠牲にしています。
天使の鑑というのはきっとラフィア先輩のことを示すのでしょう。
私は間近でラフィア先輩のことを知りたくなりました。
「……ラフィア先輩」
私はしっかりした声で名を呼びました。ラフィア先輩は首を傾げました。
「一つ年下で構わないなら、私とお友達になりませんか?」
私は自分の気持ちを伝えました。ラフィア先輩は私と友達になりたいと言っていたので、私もラフィア先輩の言葉に答えたかったのです。
ラフィアは私の問いに、顔をほころばせました。
「喜んで、宜しくねショコラさん」
ラフィア先輩は私に手を伸ばしました。
「宜しくお願いします。ラフィア先輩」
私はラフィア先輩の手を握りしめました。今度はちゃんとできて良かったです。

私はラフィア先輩に少しでも近づきたくてドラゴン育成部に入部しました。ヴィーヴ先輩がいなくなったためか、部の雰囲気は良くなっていました。ラフィア先輩は初心者の私に丁寧にドラゴンの知識を教えてくれました。エサのあげ方、ドラゴンの鳴き方で機嫌が分かったり、ドラゴンとの距離の縮め方などです。
ラフィア先輩の指導のお陰で、一ヶ月くらいで私はドラゴンの世話ができるようになりました。ラフィア先輩は面倒見が良いなと感じました。友達にもなりましたので、部活が終わった後に一緒に帰ったり、お茶を飲んだりもしました。
ラフィア先輩は常に楽しそうに笑っていてこちらも明るい気持ちになれそうです。これは私が観察した時には分からなかったことです。
私はラフィア先輩と友達になれて良かったと思いました。

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