私はショコラと言います。名乗ったかもしれませんが、もう一度言っておきます。
バレンタインの時、私は気になっていた相手である一つ年上のリン先輩に気持ちを伝えましたが、残念な結果になりました。
悔しいですが、これはこれで仕方なかったと諦めます。何回も同じ相手に告白している人はいるみたいですけど、私はそこまでできる精神力は無いです。
しかし、私は一つ気になることがありました。ラフィア先輩のことです。リン先輩と常に側にいる女の子です。
リン先輩は「ラフィ」と愛称で呼ぶほどに親しい仲のだというのが、容易に想像できます。私はラフィア先輩のことを知りたくなりました。彼女がどんな人なのかを。
あ、一応断ってはおきますが、リン先輩への感情は割り切ります。でないとラフィア先輩の人柄が見れませんからね。

「……ここで良いよね」
動かしていた羽根を止め、私は学校の屋上に降り立ちました。そして透明になるマントを全身に羽織りました。これで私の姿は誰にも見えません。
失恋の後、ユラくんとは友達となり、彼が作ったいたずら部(学校では非公式です)に入りました。ユラくんにお願いして、ラフィア先輩の観察に役立ちそうな透明になるマントを借りたのです。
学校が始まる前の時間は案外静かなものです。
私が学校に来てから二十分ほど経った頃でした。学校の生徒でもある天使達が空から舞い降りて学校に現れ始めました。天使達の賑やかな声が響きます。学校が始まる前だなと感じます。
私は持参していた望遠鏡を手に持ち、天使達を見ました。色んな人がいますが、ラフィア先輩はいません。
私のお腹が鳴りました。朝食をとるのをすっかり忘れてました。私はポケットに入れておいた小さな包みを左手に持ち、親指で袋を破きました。中身は五つのザクスの実です。
ザクスの実は天使の非常食で、味は良くないですが、栄養はあります。破いた袋を地面に置き、私はザクスの実を一個口にしました。
「慣れない味ね」
私は言いつつも、一つ目のザクスの実を飲み込み、二つ目のザクスの実を口に入れました。
ザクスの実の憂鬱な味にうんざりしている時でした。覚えのある顔が私の視界に入りました。
リン先輩と一緒に歩くラフィア先輩です。ラフィア先輩は楽しそうにリン先輩と話しています。どういう話をしているのでしょう。リン先輩が笑っている所を見ると、余程面白い話題なのでしょう。
見てるこっちまで二人に入りたくなりますね。
「ラフィア先輩はリン先輩と登校し、楽しそうに話していた」
私はメモ帳を出してそう記しました。ユラくんの入れ知恵のお陰で面白い情報が分かりました。
ザクスの実を空にし、破れた袋をポケットに入れ私は透明のマントを羽織ったまま、音を立てないように羽根をゆっくりと広げて地上に降りました。私も学校に入らないといけませんしね。

四日後の夜、自室で私は自分が書いたメモ帳を読み返しました。ラフィア先輩の観察記録です。
ラフィア先輩は同性の友人も多く、食いしん坊ということ。勉強はそんなに得意ではなさそうです。
リン先輩とは友達というより、兄妹みたいです。しっかり者の兄と頼りない妹という印象です。ラフィア先輩の境遇(両親と記憶を事故で失っているんです)を考えればしょうがないのかもしれませんが。
机に置いてあった連絡水晶が光りました。誰かから連絡が来たようです。私は連絡水晶を手に持ち、通信のボタンを押しました。
「もしもし」
『オレだ』
ユラくんです。
「こんな時間にどうしたの?」
『ちょっと気になったから連絡したんだよ、ラフィのことを調べて何か分かったか』
「うん、色々とね」
『明日はドラゴン育成室に入るのか』
ユラくんが聞きました。
ドラゴン育成室は学校の地下にある部屋にあります。ラフィア先輩はドラゴン育成部に所属していて、特別な用事がない限りは毎日顔を出しているそうです。
私は何かと忙しくて、明日しかドラゴン育成室に入るチャンスが無いのです。ラフィア先輩のことを知るためです。
「うん、入るよ」
『おまえさ、ラフィの知りたいのは分かるけど、やめた方が身のためだぞ、ふざけ半分でミスチがドラゴン育成室に入ってドラゴンに食われそうになったんだ』
ユラくんは真剣な声でした。ミスチくんはイタズラ部の一員です。
「心配しなくても策は練ってあるよ」
私は言いました。万が一に備えてドラゴンに効くとされる眠り粉を用意しました。
『あと、気を付けるのはドラゴンだけじゃないんだ。部員もなんだ。特にヴィーヴはやばいぞ』
ユラくんは年上の人を呼び捨てにしました。ヴィーヴ先輩はラフィア先輩と同学年です。
「ヴィーヴ先輩でしょ、呼び捨てはいけないわ、ヴィーヴ先輩がどうかしたの?」
『おまえ、聞いたことがないのかよ』
ユラくんは少し怒ったように言いました。私が注意したことが気にくわなかったのでしょう。
「無いわ」
私はきっぱり言いました。先輩の悪い噂は私や友人達とは無縁だからです。
ヴィーヴ先輩のことは名は知ってますが、それ以外のことは分かりません。
『知らないなら教えてやる。ヴィーヴは滅茶苦茶口が悪い上に、機嫌が悪いと手も出すらしい。ヴィーヴが原因でドラゴン育成部の新人部員が何人も辞めてるんだ。ラフィもヴィーヴには苦労してるんだ。とにかくヴィーヴには気を付けろよ』
「分かった。忠告してくれて有難う」
私はユラくんに礼を述べた。
『それと、余計なことかもしれないけど、観察もほどほどにしろよ、じゃあな』
ユラくんはそう言って通話を切りました。
「言われなくても部室での観察したら終わりにするわ」
光が消えた連絡水晶を見て私は呟きました。
ラフィア先輩のことを知る目的のためとはいえ、気持ちの良いものではないのは自分でも分かっています。
透明のマントを羽織ればきっと上手くいくはず。私はそう自分に言い聞かせました。
明日に備え、私は眠りにつきました。

しかし私はこの地点で知りませんでした。あんな事が起きるなんて……


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