ラフィアは自室で「ううっ……」と苦しげなうめき声を上げていた。
「大丈夫?」
リンに訊ねられ、ラフィアはリンの顔を見る。
「何とか……」
ラフィアは力なく言った。
「だらしないな、たかだか腹が痛いだけだろ」
リンの隣にいたユラが無神経は言葉を発した。ラフィアは唇と背中の羽根を尖らせる。
「ユラくんは……男の子だから……分かんないかもしれないけど……女の子の日は大変なんだよ」
ラフィアは怒り混じりに口走った。ラフィアが寝込んでいる原因は、月に一度の月経である。ちなみに二日目である。
人間と同じ体の仕組みをしている天使でも、容赦なく月経は来るのだ。
ちなみに兄弟がラフィアの部屋に訪れたのは、ラフィアの見舞いのためだ。
「ユラ、言い過ぎだぞ」
リンはユラに注意する。腹痛と軽く考えられてはいるが、ラフィアにとっては登校できない程の問題である。
ユラもラフィアの話と様子にいけないと感じたらしく、申し訳なさそうな顔になった。
「ごめん」
「分かってくれたなら良いよ……それと悪いけど二人とも出てってくれないかな」
「行こう、ラフィ、ゆっくり休むんだよ」
リンは弟の肩を軽く叩き、二人はラフィアの部屋を後にした。
ラフィアは布団の中に潜り込む。
月経痛はロウェルの癒しの呪文をかけて緩和してもらっていた。しかし毎月繰り返し来る痛みに、癒しの呪文はあまり意味は無いと感じ、かけてもらうのをやめることにしたのだ。
月経痛を和らげる薬草もあるが、変な味がするので飲まなくなった。
学校が休みの時に月経が来るなら良いが、今日のように学校があったり、学校にいる間に月経が来たら困る。
「女の子の日は辛いな……」
ラフィアは薄っすらと涙を浮かべる。母や兄弟には気丈に振る舞うが、一人になると痛さから涙が出る。
「もう、寝ちゃおう」
ラフィアは涙を拭かずに、目を閉じた。

ラフィアは夢を見た。ラフィアは白い羽根をはばたかせ、空中を回転していた。
「輝く~天使の呪文で~ファイちゃんに~プリンを作るよ~」
ラフィアは歌を口ずさみながら、黄色い輝きを右手から出した。
地上にいる人間の少女のファイに向かって黄色い輝きを人差し指から放つ。ファイの目の前にプリン入りの器が現れた。
ファイが手に持っていないにも関わらず。器は浮いている。
「わぁ……」
ファイは顔から嬉しさを隠せない様子で器を左手で持った。そして右手でスプーンを握り、プリンを口に運ぶ。
ラフィアはファイの元にそっと降りた。
「味はどう?」
「うん、美味しいよ!」
ファイはにっこりと笑った。ファイはプリンが好きなのだ。
ファイの明るい笑顔は、最初にファイと会った時は黒天使に襲われ、恐怖に染まっていたので、今とは対照的である。
「なら良かったよ」
「空中でくるくるしながら、歌をうたうお姉ちゃん可愛かったよ」
ファイは言った。本当なら空中回転も歌も抜きにして呪文でプリンを出せるのだ。
「あれはファイちゃんを喜ばせる演出だから」
ラフィアは口元を緩めて言った。
ファイが明るい顔をしてるので演出やプリンは成功だと思った。
ラフィアの夢はそこで途絶えた。

「ん……」
ラフィアは目を覚ました。二週間前のファイとの楽しい思い出が夢で再現されて幸せな気分だった。
次にファイに会いに行くのは来週である。夢のお陰か腹痛は眠る前より和らいだ。来週には月経も終わるので、ラフィアにとって嬉しい限りだ。
「……今度はどんな事をしようかな」
ラフィアはファイとの楽しい交流を考えて、にやりと笑った。


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