僕は幼馴染みのラフィアの夢とよく似た夢を見たんだ。ラフィアが退院してからだけどね。
ラフィア……いや彼女とは親しいからラフィと呼ぼう、僕と五人の仲間やラフィと三人の仲間はラフィと同じ。
僕が何故見たのかは、きっと神様が気紛れで見せてくれたのかもしれない。
でも違うのは、ラフィが良い夢から悪夢だったの(後にまた良い夢に変わるけどね)に対し、僕は悪夢から良い夢……つまりラフィとは逆ということになる。
僕は黒天使に捕らわれた上に呪文をかけられ操られて、多くの天使や人間を手にかけるんだ。人が痛みや苦しみに歪む顔を見ても、服や肌に血が付いても僕は何も感じずひたすら天使や人間を襲う。夢とはいえ苦痛でしかないよ。
苦痛、いやこれは拷問と言っても良いくらいだったのが、僕は自分の仲間逹やラフィ逹と戦うことになったことだ。
僕が力一杯やめろと叫んでも、夢の僕は剣を振るう手を止めない。見ているだけで何もできないのがとても歯痒いよ。
夢の中の僕と仲間との付き合いは長くて、中には僕に恋心を寄せる女の子もいたんだ。その子は僕に必死に話して僕を元に戻そうとしたよ。
その子も含めて、夢の中の僕は自分やラフィ逹の仲間を命は奪わなかっただけマシにしても倒してしまったんだ。
残るは僕の幼馴染みのラフィ、ラフィは涙目になって顔を歪めて僕を見据えていた。
……あんな顔のラフィは見たくはない。
ラフィは仲間を倒された怒りにかられて、僕に容赦なく攻撃呪文を放ってきたよ、僕はラフィの呪文を回避しつつラフィに攻撃できる機会を伺っていた。
ラフィはわめき声で僕に、何でひどい事するのや目を覚ましてよリン君、とかラフィらしいことを口走っていた。
ラフィの攻撃が緩んだ隙に僕はラフィ目掛けて疾駆し、ラフィに剣を振り下ろしたよ。
その時だった。僕の背中に凄まじい衝撃がして僕は足元を滑らせてしまったんだ。それだけで終わらず、僕の体には無数の蔦が絡みついた。
僕の仲間の一人と、ラフィの仲間の一人の連携により、僕の動きは封じられた。
ラフィは僕に呪文をかけ、僕はようやく正気を取り戻した。皆傷だらけで見てるだけで胸が痛んだ。夢の中の僕はひたすら謝っていた。
僕の仲間の一人一人から言葉を受けた。貴様もまだまだ未熟だな、操られてたんですから仕方ないですよ、後悔するのは後回しにしよーぜ、元に戻って良かったよぉ、立てる? 立てないならボクが支えてあげる。
……僕はいい仲間に恵まれてると痛感した。
ラフィは僕を抱き締め、お帰りリン君と言った。

「……夢でもリン君気の毒だよ」
ラフィはむすっとした表情で言った。夢のことをラフィに打ち明けたからだ。
内容に戦闘を含んでいるからラフィに話すのは躊躇いはあったけど、ラフィが見た夢と似ていたから決めたんだ。
ラフィは僕の話に聞き入り、途中でラフィは
また三人に会えて羨ましいと言われたり、気にしていた僕とラフィが戦う下りでは今のように黒天使に怒りを露にしていた。
「リン君を操った黒天使酷いよ、火とか水鉄砲をお見舞いしたいよ」
ラフィはまだ怒っていた。実際黒天使は天使を操ることがあるんだ。
「あくまで夢だからね」
僕は言った。現実だったら洒落にならない。
ラフィや弟のユラと戦うなんて考えただけでゾッとする。
「ところで、夢の続きってあるの?」
ラフィは気にしている様子だった。
「一応はあるよ」
「教えてよ、ラフィのは途中で終わってるから気になるな」
ラフィは朗らかな声で言った。
僕は思い出せる範囲で話した。黒天使や黒天使を生み出す怪物を仲間と一致団結して倒し、黒天使を消滅させて冒険が終わり皆離れ離れになった。その一年後に仲間の結婚式に呼ばれ、僕に想いを寄せていた女の子が告白した。
「それで、女の子とはどうなったの?」
ラフィは興味津々に訊ねた。年頃なのかな、ラフィは恋の話に食いついてくる。
「そこで夢から覚めたよ」
「曖昧な結末なんだね」
ラフィの声色には少し落胆が含まれていた。すっきりしない終わり方に納得しないのだ。
……言ってるけど、夢なんだけどな。
「ラフィ、僕さ夢に出てきた仲間逹を描いてみたんだ」
僕は話を変える意味も含めて、スケッチブックを出した。
「おおっ、受賞者リン君の絵が拝めるなん最高だよ!」
「大袈裟だよ」
僕は苦笑いを浮かべた。
二年前だが、僕は校内の絵画コンクールで賞を貰ったことがある。
その時は風景画だったが、母さんが本当に嬉しそうに祝ってくれて、それ以来僕は絵を描くことは続けている。
僕はスケッチブックを開き、ラフィに仲間逹の似顔絵を見せた。
「こんな感じだったと思うけど……どうかな」
僕はちょっと不安になった。ラフィは夢の記憶が薄れているからだ。
ラフィは驚いた顔をして「おおっ」と声を出した。
「凄いよリン君! リン君やラフィの仲間逹そのものだよ!」
ラフィは熱がこもった声になった。
ラフィは仲間の名前も思い出したらしく、似顔絵に指を差して名前を言い当てていく。
「リン君のお陰で皆の名前思い出したよ!」
「なら、良かったよ」
僕はラフィの役に立てて嬉しかった。

夢のことを話した影響か、僕はこの日僕に想いを告げた女の子と過ごす夢を見た。
夢の僕はその子と手を繋ぎ、楽しげに話していた。どうやら両想いになったらしい。
始まりは悪くても、終りが良ければいい話になるなと思った。


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