「エイミー、オリビア、プレゼントだ」
帰宅したイロウは娘のエイミーには箱を妻のオリビアには花が詰め込まれたバスケットを手渡した。
今日はホワイトデーなので、イロウは娘と妻プレゼントを渡すのだ。
「綺麗な花ね」
オリビアは嬉しそうに言った。
オリビアは花が好きで、庭にはオリビアが育てている花が咲き乱れている。
エイミーは目を輝かせて箱を見つめている。
「開けていい?」
エイミーがイロウに訊ねた。イロウは優しく「ああ、いいぞ」と言った。
エイミーはわくわくした様子で箱を開けると、ライオンの縫いぐるみがあった。
「わぁ……ライオンだ」
エイミーはライオンの縫いぐるみを持ち上げた。
エイミーが欲しがっていたのをオリビアから聞いていたので、ホワイトデーのプレゼントにしようと思っていた。
「パパ有難う! 大事にするね!」
エイミーは笑顔を浮かべた。
見ているだけで今日の疲れが吹き飛びそうだ。

エイミーが眠りにつき、イロウはオリビアとテーブルで向き合った。
「エイミーはあの人形のことすっかり気に入ったみたいね」
エイミーはお茶を淹れたカップをイロウに差し出した。イロウはお茶を口に含んだ。
エイミーは夕飯を食べる時も気に入った縫いぐるみを持参している。
今日はうさぎとイロウがあげたライオンの縫いぐるみだった。
エイミーの部屋には縫いぐるみが沢山置いてある。エイミーは縫いぐるみが好きなのだ。
「テフコに任せて正解だったな」
テフコは人形職人で、有りとあらゆる人形を作ることが得意なイロウや妻娘と同族の黒天使である。
「テフコさんには後でお礼をしましょうね」
「ああ、そうだな」
イロウはテフコのお礼の品をどうするか考えを巡らせながらも、別のことが気になった。
「俺がいない間のエイミーの様子はどうだ」
イロウは訊ねた。イロウは家にいない時間が長いためエイミーのことはオリビアに任せている。
そのため娘のことはオリビアに聞くのだ。
どれだけ忙しくても妻の話に耳を傾ける時間はつくる。
オリビアは微笑が口角に浮かぶ。
「エイミーはね……」
オリビアは声色を明るくして話始めた。エイミーは三人の友達と遊ぶことが楽しいのだ。
加えて簡単なアクセサリーを作るという。
「オリビアがしているブレスレットもエイミーが作ったのか」
イロウはオリビアの左手にしているブレスレットに目を向ける。
「そうよ、あなたの分も作るって張り切ってたわ」
「楽しみだな」
イロウは娘の成長に感心していた。エイミーが産まれてから五年が経つがあっという間だと感じた。
昨日できなかったことを、今日にはできるようになっていたり、エイミーを見ていて驚かされることばかりだ。
「あなた」
オリビアに声をかけられ、イロウはオリビアの顔を見た。
「くれぐれも無理はしないでね、疲れたのなら休んでも良いのよ」
オリビアは心配するような目付きだった。
イロウは多忙な立場にいるため、簡単には休めない。しかし妻のオリビアに精神的な負担はかけたくは無い。
「……大丈夫だ。心配はいらない」
イロウは明るい声で言うと、席を立ちオリビアの後ろに回った。
「君こそ無理はするなよ、羽根は手入れしないとな」
イロウはオリビアの羽根を眺める。
黒天使は天使同様に羽根を手入れをしないといけないのだ。怠ると力が弱まる天使とは違い病気になる。
オリビアの羽根は少し汚れていて、そろそろ洗った方が良さそうだ。
「あなたこそ、ちゃんと手入れしてね、偉い立場なんだから」
オリビアは優しく言った。
ホワイトデーはゆっくりと、穏やかに過ぎていくのであった。

後日、イロウはエイミーからブレスレットを貰うのだった。


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