職員室でラフィアはナルジスを睨む。
「何でわたしが……謝らないといけないんですか?」
ラフィアは声を震わせて、隣にいるメルキに訊ねる。
「ナルジス君も悪いけど、ラフィアさんもナルジス君に呪文で攻撃を仕掛けたのはいけないことだよ」
メルキはいつになく真剣な口調だった。
「だって……ナルジスは……カンナちゃんのことを馬鹿にしてたんですよ!」
ラフィアは興奮混じりに口走る。
ラフィアがナルジスと喧嘩になったきっかけは、ラフィアの友人・カンナが簡単な呪文を習得できずナルジスが酷い言葉を投げ掛けたことだった。
カンナは懸命に努力をしているものの、中々思う通りにならず、本人もその事を気にしているのに、ナルジスはカンナの気持ちも考えない言葉を口走ったことが、ラフィアがナルジスと衝突するきっかけとなったのだ。
「俺は本当のことを言ったまでだ」
ナルジスはラフィアを刺激することを口にした。
「あなたのように一度で出来る天使ばかりじゃないよっ!」
「ラフィアさんも落ち着いて、ナルジス君も誰かを見下すようなことを言うのはやめようよ」
メルキはラフィアを宥めた。しかしラフィアの気持ちは落ち着かない。
「そんな奴の謝罪はいらないから俺は教室に帰る。時間の無駄だ」
ナルジスは言って、足早に立ち去った。
「ナルジス! わたしは人を馬鹿にしたり! 傷つけたり! ましてや友達を侮辱するあなたなんか大っ嫌い!」
ラフィアは職員室中に響き渡る大声を出した。

「ううっ! 悔しい悔しーい!」
ラフィアは体を震わせて叫ぶ。
「ラフィ……落ち着きなよ」
「だって、ラフィだけ花壇の草むしりしろなんて納得いかないんだもん!」
ラフィアは口を膨らませる。
喧嘩の罰として、花壇の草むしりをするはめになったのである。
花壇は広く、呪文の力があっても三十分はかかるのだ。
「ラフィも手を出すのが悪いよ」
リンははっきり言った。
「リン君までメルキ先生みたいな事を言うんだね」
「君は女の子で、ナルジスは男なんだ。力の差もあるから暴力で物事を解消するのは良くないよ」
「正確には呪文ですけどね!」
ラフィアは怒りを含んだ声を上げる。
ナルジスはカンナに謝らなかったことも余計に癪に触った。
ラフィアの気持ちが晴れない中、門扉の所にカンナが立っているのが視界に入る。
「カンナちゃん……」
ラフィアはカンナの元に駆け寄った。カンナは沈んだ表情をしている。
「ラフィアちゃん、今日は私のせいで迷惑かけてごめんね」
「わたしは全然平気だよ、悪いのはあのひねくれ天使だよ!」
ラフィアは強い口調で言った。しかしカンナは首を横に振る。
「私がいけないの、皆が取得してる中で私だけ覚えられないのはおかしいもん」
カンナは悲しみを声に含ませる。
「練習すれば出来るようになるよ! わたしも手伝うからさ!」
ラフィアは明るく励ました。が、カンナの表情は曇ったままである。
「ラフィアちゃんの気持ちは嬉しいよ、でも……」
でも……の所で、カンナは涙を流した。
「私みたいな天使失格には関わらない方が良いよ」
カンナはそう言って、ラフィアの前から去った。
「カンナ……ちゃん」
ラフィアはカンナの背中を見て、悲しみが押し寄せた。

その後、カンナは学校に来なくなってしまった。メルキは体調不良と言うが、ラフィアはナルジスが原因だと分かりきっていた。
ラフィアはカンナの一件が元で、ナルジスに対する嫌悪感が増したのであった。

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