ラフィアは両親が眠る墓の前で、生前二人が好きだった食べ物を並べていた。
今日は父の日で、父のみの食べ物でも良いのだが、それでは母が気の毒だと思ってのことだ。
ラフィアは墓で色々と報告した。クッキーを作ってロウェルに褒められたことや、弱っていた兎を呪文に頼らず元気にさせたことなど、主に両親が喜びそうなことである。
「……そろそろわたし行くね、食べ物はわたしが責任もって食べるよ」
報告を終え、ラフィアは食べ物を持参していた袋の中に入れた、墓の前に残すと飛んできた鳥が食べ散らかしてしまい汚れてしまうからだ。
「お父さん、お母さん、また来るね」
ラフィアは墓に言うと、背中を向けて歩き出した。
「ラフィアさん」
墓地の出口前で、女性に声を掛けられ、ラフィアは振り向く。
肩までの髪に、羽根の髪飾りを付けた女性が立っていた。
去年ハロウィンの時に世話になった特殊部隊の一員である。
「セイアッドさん」
ラフィアは女性の名を呼ぶ。
セイアッドの顔は喜色に満ちた。
「覚えていてくれて嬉しいよ」

二人は喫茶店に来て。それぞれ注文した。
ラフィアはチョコケーキを、セイアッドはアイスティーである。
「……本当に良いんですか?」
「気にしないで、私が誘ったんだし」
セイアッドは朗らかに言った。飲食代は彼女が出すという。
「調子はどう?」
「すこぶる順調です」
ラフィアは明るく答える。セイアッドは医療班の隊長なので体のことが気になるのだろう。
ラフィアの体を治療したのだから尚更である。
「セイアッドさんは今日はお休みなんですか」
「そうだよ、仕事ばかりだと体が持たないから、休めるうちに休むのも重要なことだからね」
「へぇ……」
大人の世界も大変なんだなとラフィアは思った。
二人が話している内に、注文したチョコケーキとアイスティーが来た。
ラフィアはチョコケーキを頬張った。チョコの食感が口一杯に広がり美味しいと感じた。
「どう?」
「美味しいです!」
ラフィアは率直に答える。
チョコケーキはあっという間に平らげてしまった。
「口に合って良かったわ」
セイアッドは言うとアイスティーを静かに飲む。
特殊部隊の人が目の前にいるというのも貴重である。
「あの……」
ラフィアが言うと、セイアッドはカップから口を離す。
「何かな」
「ハザックさんや他の皆さんはどうしてますか?」
ラフィアは訊ねた。自分を助けてくれた人達がどうしてるのか気になったからだ。
墓地のことは場所が場所なので触れない、そう思ってのことだ。
「皆は元気にやってるよ、あ、ホルドさんが結婚したのは大きな変化かな」
「へぇ……そうなんですか、良かったですね」
ラフィアは自分のことのように嬉しくなった。
「リン君やお母さんの様子はどう?」
「変わりないです」
セイアッドの質問に、ラフィアは明るく返した。
リンとロウェルも元気である。
セイアッドはカップを空にした。
「ラフィアさん」
セイアッドはさっきと同じくラフィアの名をもう一度呼ぶ。
「何ですか」
「健康には気を付けるんだよ、食生活や睡眠はラフィアさんくらいの年齢だと重要だから」
セイアッドは改まった声で言った。天使といえど不摂生な食事をしたり、睡眠をとらなかったりすると病気になる。
癒しの呪文も効果がないので、こればかりは自己管理である。
「分かりました。注意します」
ラフィアは言った。セイアッドの話には説得力があるからだ。

「えっ、セイアッドさんに会ったの?」
「うん」
自宅に帰り、ラフィアは自室にいるリンに話した。
リンの母親のロウェルより、セイアッドと関わったリンの方が話しやすいと判断したためだ。
「ラフィがお父さんとお母さんに報告して帰る時にばったりと」
「……てことは墓地ってことだよね」
「そうだよ、詳しい話は聞けなかったよ、場所が場所だしね」
ラフィアは突っ込んだ話をするのは失礼だと感じたのだ。セイアッドとは親交がないので尚更である。
想像だが、セイアッドもラフィアと同じように誰かの墓参りに来たのだろう。
「セイアッドさん、リン君に宜しく言ってたよ」
「そうか……」
「また会えると良いな、セイアッドさん」
ラフィアは言った。
テレパシーで連絡しようと思えばできなくもないが、直接会って話す方がラフィアの性に合うのだ。
今度セイアッドに会った時にどんな話をするかラフィアは考えておこうと決めた。
両親の報告と、セイアッドとの再会でラフィアの一日は終わりを迎えるのだった。


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