「今年も綺麗な桜だな」
ベリルは咲いている満開の桜を見て満足げに言った。
「素敵ですぅ! 頑張ってお弁当作った甲斐がありますね!」
コンソーラは背中の黒い羽根を上下に動かしながら言った。桜の美しさに気持ちが高ぶっている。
「コンソラっち興奮し過ぎだよ」
コンソーラの隣にいるリュアレは苦笑いした。
今日は休日なので、ベリルは友人である女子二人と共に、花見に来たのだ。
ベリルはシートを敷き、コンソーラは弁当箱をシートに置いて蓋を開く。
三人は弁当を囲うように座っている。
「うわぁ……美味しそうだネ」
リュアレの目は太陽のようにきらきらと輝いた。コンソーラの料理は絶品なのだ。
「おいおい、食べるのは乾杯してからだろ、先走るなよ」
ベリルは瓶に入ったジュースをカップに注いだ。ジュース入りカップをコンソーラに手渡した。
「ほら、溢すなよ」
「有難うございますぅ」
「今年は桃のジュースにしてみたヨ、口に合うといいな」
リュアレは言った。ジュースはリュアレの手作りである。
「リュアレのジュースは美味いからな、今から飲むのが楽しみだな」
ベリルは機嫌良く言った。
カップが二人の手に渡るのを確認し、ベリルは軽く咳払いをした。
「今年も桜に感謝を込めて……」
ベリルはカップを持った手を掲げた。そして……
「乾杯!」
「乾杯です」
「乾杯ネ!」
三人はカップを鳴らした。
その後三人は弁当に箸をつけた。ベリルは好物の肉料理を中心に、コンソーラは肉と野菜をバランス良く、リュアレは果物と野菜をそれぞれ食べた。
リュアレの桃ジュースは桃の甘さが引き立っていて美味しかった。
コンソーラの作ったハンバーグ、唐揚げ、野菜炒めは絶品で、沢山食べることにを見越して大量に作ってはきたようだがあっという間に無くなってしまった。ハンバーグと唐揚げはベリルがほぼ一人で食べてしまったと言ってもいい。
「あー食った食った!」
ベリルは楽しげな顔でお腹をさすった。
「ベリルさん、お肉ばかり食べてると体に悪いですよぉ」
コンソーラは低く抑えた声で注意した。ベリルは野菜を食べない訳ではないが、肉ばかりを食べるのだ。ベリルいわく体を作るためにも肉を食べたいらしい。
リュアレは「まあまあ」と宥めるように言った。
「ベリルっちは少しは野菜も食べてるから大丈夫だヨ」
「そうでしょうけど……」
コンソーラは納得いかない様子だった。
ベリルが野菜をあまり食べないことを想定し、野菜の肉巻きも作ったのである。
ベリルは二個ほど口に運んだが、殆どは作ったコンソーラやリュアレが食べたのだ。
「まあ、ベリルっちの体が危なくなったらじいちゃんに頼んで野菜を凝縮した液体でも作ってもらうヨ」
リュアレはベリルにとってさりげに恐ろしいことを言った。リュアレの祖父はミルトで黒天使の癒しに必要な薬草を作っている。
ミルトはリュアレに甘いらしくリュアレが頼むことは無理難題でない限りは引き受けてくれるという。
リュアレの言う野菜凝縮液は依頼すれば本当にミルトが作りそうなので怖かった。
「ミルト爺さんの薬は苦いですからねぇ、リュアレさんの言う液体もきっと苦いでしょうね」
「ああ……」
ベリルはコンソーラの話に共感した。
コンソーラは友人でも呼び捨てにせず「さん」付けで呼んでいる。
「気持ちは嬉しいけどよ遠慮するぜ、野菜はちゃんと食うからよ」
ベリルはリュアレに言った。リュアレはベリルに近づいてきた。
「ホントかなぁ~? ベリルっちはそんな事言っておきながらあまり野菜食べないよネ」
「こ……今度はマジだよ、一ヶ月後には重要な作戦にオレも参加するからな」
それは本当だった。一ヶ月後に天界に突入する作戦が行われる予定だ。
よってベリルも体調には気を付けないとならない。栄養が偏って体調を崩すのはみっともないからだ。ミルトお手製の液体を飲むくらいなら、素直に野菜を食べた方がマシである。
「約束だヨ、守んなかったら液体の刑だからネ」
「分かったよ」
ベリルはリュアレと指切りをした。
「私、明日からベリルさんのために美味しい野菜料理を作りますね!」
コンソーラは張り切っていた。
「ベリルさん、明日の弁当楽しみにしていて下さいねぇ」
コンソーラの笑顔は、ベリルにとって少し怖く感じた。
ベリル達は平日学校があり、昼食は弁当か食堂に行って食べるのだ。普段のベリルは男の友人と弁当を食べるのだが、明日からはコンソーラお手製の野菜中心の弁当を食べることになりそうだ。
コンソーラの料理が美味いのが救いだが……
「そいつは楽しみだな……ははっ」
ベリルカラカラと笑った。
ベリルにとって長く感じる春は始まったばかりである。

戻る 

 

inserted by FC2 system