「ハッピーハロウィン! ナルジス!」
「あ……ああ」
俺は機嫌よく話すマルグリットが差し出したカップに、俺は紅茶のカップを軽く鳴らした。
マルグリットは不思議な国のアリスのアリスの格好をしている。
ちなみに俺はアリスに出てくるチェシャ猫の格好をしている。俺の頭には恥ずかしいが猫耳が付いている。これはマルグリットが着てくれと頼まれたから付けている。
俺とマルグリットとは付き合っているからこの格好をしているが、他の奴に言われたら断る。
俺がいるのはマルグリットの部屋で、ハロウィンの装飾が施され、俺が座っているテーブルにはマルグリットが作ったかぼちゃパイが置いてある。
今日はハロウィンで俺が来ることもあり、張り切ったらしい。
俺はマルグリットが淹れてくれた紅茶を飲んだ。紅茶の良い香りが漂い、質の高い茶葉を使っていると感じる。
「美味いな」
「でしょう、ナルジスのために用意した高級の茶葉なのよ」
マルグリットは言った。
「かぼちゃのパイも食べてみて、初めて作ったから味には不安はあるけど……」
マルグリットはかぼちゃのパイを自信なさげに勧める。
俺にまで不安がうつりそうだが、折角俺のために作ってくれたのだから、俺はかぼちゃのパイを一切れ皿にのせて、フォークで一口食べた。
サクサクとした食感と、かぼちゃの甘さが口の中に広がる。
「こっちも美味いよ」
「それなら良かったわ、呪文の力も借りたけど、安心したわ」
マルグリットは清々しく語った。
呪文は俺達天使が使用する力で、戦いだけでなく、日常生活の中でも使われる。料理や掃除などだ。
「……普段は料理とかしないのか?」
「失礼ね、アンタと付き合うことになってから少しはやるようになったわよ」
マルグリットはむっとした言い方になった。
「そうか……すまない」
俺はマルグリットの気分を損ねたと思い、謝罪した。
「まあいいわ、これからは呪文抜きで美味しい料理を作れるようになるわ」
マルグリットは俺に明るく宣言した。
「……随分乗り気なんだな」
俺は言った。マルグリットと付き合い始めてからまだ日が浅いのに……
「誰かのために何かするのって素敵じゃない」
「そうだけど……」
俺は自分でも分かるくらいに歯切れ悪く口走った。
「どうしたのよ、もしかしてアタシの父親のことを気にしてるの?」
実の所、マルグリットの言ってることは当たっていた。
マルグリットは俺を家に上げる時、家族に紹介している。母親の方は問題なかったが、父親は俺を快く思っていない目付きをしていた。
娘に男ができたことが気にくわないのが全面的に出ていて居心地が悪かった。マルグリットには申し訳ないが、仲良くしろと言われても願い下げだ。
「あの人のことは気にしなくていいわよ、考えが古いのよ、アタシ達と同い年の子でも男女の付き合いはある人はいるわよ、アンタのおじさんはアタシ達の交際には反対しなかったでしょ?」
「問題無かったよ」
マルグリットと付き合うことは叔父には一応伝えておいた。
学業に支障を出すなとは釘を刺されたが、許可はもらった。
「じゃあ、堂々と付き合いましょう、悪いことしてる訳じゃないんだから」
マルグリットは歌い出しそうな声で語る。
彼女の意見は一理はある。マルグリットの強気な態度は俺としても嫌ではない。むしろ心地良い。
付き合ってから日は浅いが上手くやっていけそうだ。
「きみの言う通りだな」
俺は言った。
誰が何と言おうが、俺はマルグリットと付き合っていこう。そう思った。
俺は残りのかぼちゃのパイを食べ、マルグリットと他愛もない話をして過ごした。


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