「今年も凄いチョコだね、リン君」
ラフィアはテーブルにある大量のチョコの山を見つめる。全てリンが女子から貰ったものだ。
「……そうだね」
「リン君モテるからね~」
ラフィアは言った。
リンは性格もあってか女子から非常に人気がある。
一人リンに想いを告げた後輩の女子がいて断ったことが心苦しかった。
「ラフィも食べるの手伝ってくれる?」
「構わないよ、沢山のチョコをリン君だけで食べるの大変だしね」
「有難う、助かるよ」
リンもチョコを食べるはするが、食いしん坊の幼馴染にも食べてもらわないと処理しきれないのだ。
チョコをくれた女子たちには申し訳なく感じるが……
「ねえ、リン君」
ラフィアは心配そうな顔つきになった。
「何?」
「チョコ繋がりで一つ相談したいことがあるんだ」
ラフィアはポケットから箱を取り出した。
「わたし宛てにチョコが届いたの」
リンはラフィアが見せた箱をまじまじと見つめる。名前が無く誰が送ってきたか分からないのだ。
「……まただよ、何かちょっと怖いな」
ラフィアの声色は不安に染まる。
二年前からバレンタインの日にラフィア宛てに箱が届くようになったのだ。周囲にも聞いたが誰もラフィアに送っていないらしい。
イタズラ好きな弟ユラも送っていないという。
「そうだね。一応危険がないか確認した方がいいね」
リンは箱を地面に置き、片手を伸ばした。
「箱の中身が何かを識別せよ!」
リンが叫んだ瞬間、箱は黄色い光に包まれ文字が浮かび上がる。
リンは文字を読む。
「箱にはチョコと手紙が入っている。毒物や攻撃呪文といった危険は無い」
「……誰が送ったかまでは分からないんだね」
「識別の呪文は安全か危険を見分けるだけだからしょうがないよ、この箱開けてもいい?」
リンの問いかけに、ラフィアは首を縦に振った。
リンは箱の主に内心で謝りつつ、箱のラッピングを解いて箱を開く。
中身はハート型の大きなチョコが一つに、手紙が添えられている。
「今年は手紙が付いてるね」
去年ラフィア宛てに届いた箱はチョコだけだった。
ラフィアは手紙を手に持ち文章を見つめた。その途端にラフィアは困惑した顔つきになる。
「どうしたの」
「知らない人の字で、あなたのことを想ってます。だって」
「見てもいいかな」
「良いよ」
リンはラフィアの横から手紙の内容を確認した。
綺麗な字で確かに“あなたのことを想っています”と綴られている。
リンの記憶にある限り、筆跡に見覚えはない。
「……ユラではないことは確かだ。字からして女性っぽいな」
「分かるの?」
ラフィアはリンの顔を見た。
「あくまで想像だけどね」
「ティーアさんは綺麗な字は書くけど、名前を伏せてプレゼントなんてしないよね」
「あの人の性格からしてちゃんと名前は書くよ、それにティーア士官の字と大分違うと思う」
ティーアは三か月前から士官という肩書きが付き、ティーア士官と呼ぶように言われているが、幼馴染はまだ慣れていない。
「……本当に誰なんだろう、このチョコの送り主」
ラフィアは手紙を折りたたんだ。
「分からない。心配なら明日治安部隊に相談した方がいいかもしれないな」
「そうだね」
「このチョコどうする?」
リンはラフィアに訊ねる。
「危険や毒も無いなら食べるよ、捨てたら送ってくれた人が傷つくから」
ラフィアは複雑な表情で言った。
送り主が分からなくても、チョコを処分するのは良くないと感じている。
加えてリンの母親は食べ物を粗末にするのを嫌う人物なので、チョコを捨てるなどしたらカンカンに怒るだろう。
よって毎年匿名でラフィアに送られてくるチョコは必ず食べるように心がけているのだ。
ラフィアはチョコに手を伸ばして、一口頬張った。
「味はどう?」
「すっごく美味しい! 作ってくれた人の気持ちを感じるよ!」
ラフィアは満足そうな笑顔をリンに見せた。
名無しの送り主はラフィアを想って作ったのだと感じた。
それからリンはラフィアと共に貰ったチョコを食べた。リンはチョコを口に運ぶ度にチョコをくれた女子たちの顔を思い浮かべた。

一方、天使が敵対している黒天使の住むグリゴリ村では……
「コンソーラ、今年もラフィアにチョコ送ったのか?」
「ええ、送りましたよぉ、今年はチョコに手紙を添えましたよ」
薄緑色の髪の少年・ベリルの問いかけに、黒帽子に赤毛の少女コンソーラはうっとりした表情で答える。
二年前から名前を伏せてラフィアにチョコを送っているのはコンソーラである。
ベリルはコンソーラの話を聞き呆れ顔を浮かべた。
「やめとけって、幾らバレないように細工していても、天界に物を送りつけるなんて自殺行為だぜ」
ベリルはコンソーラに忠告した。
コンソーラが二年前からチョコを送っているのは、名を名乗れなくてもラフィアに少しでも恩を返すためである。
何故二年前からなのかというと、コンソーラが天使が食べられる食材の研究が済んだからだ。
元にコンソーラが作ったチョコはラフィアに喜んで食べているのも研究の成果である。
「ベリルさんが何と言おうと、来年もラフィアさんにチョコを送りますからね」
今のコンソーラはベリルにも止められそうも無かった。


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