雲に覆われた夜の下、小さな部屋で三人男女は集まっていた。
「この雲の向こうに輝く星に……」
「乾杯!」
グラスが鳴る音と共に、三人はグラスのジュースを飲んだ。
「あーうめーなー」
アディスは満足そうに口走る。
「天気が晴れてれば最高なんだけどな」
「タナバタは毎年必ず曇るでしょ?」
エレンはサラダを口に運ぶ。
テーブルにある料理は全てエレンの手作りだ。
「一回は晴れてくれても良いのにな」
アディスはフライドポテトを口に放り込んだ。
スピカは料理に手をつけず空をじっと眺めている。
「スピカ、食べないの?」
エレンに言われスピカは二人の前に向き直る。
「え……あ、うん」
「早くしないとオレが全部食っちまうぞー」
アディスはからかい半分に言った。
「アンタが言うと本気に聞こえるわよ」
アディスに催促される形でスピカはピラフを皿に移した。
「せっかくのタナバタパーティーなんだから楽しもうぜ」
アディスは明るく言った。
今日は一年に一度のタナバタで、パーティーを提案したのはアディスで彼は笹を部屋に持ち込み、スピカは笹につける飾りを作ったのである。
後は三人で短冊に願いを書き、笹にくくりつけたのだった。
「そうね……」
スピカは歯切れ悪く言う。
アディスの言うように楽しみたいと思うが簡単にはいかなかった。
友達はいるのに、大切な人が仕事にいってるためいないからだ。
「スピカ、これ食べて元気出しなよ」
エレンは星形クッキーの載った皿を差し出した。
「後でいいわ」
「ダメよ今すぐ食べなさい」
エレンは強い口調で言った。
逆らえないと感じたスピカは一枚クッキーを手に取り、一口噛む。
「!?」
言葉にしがたい味にスピカは困惑した。
「その表情からして健康促進の薬入りを食べたわね」
エレンの言葉を聞きつつ、スピカはジュースを飲み干した。
エレンは薬の勉強をしており、時折料理にも混ぜることがある。
スピカは席を立ちエレンに詰め寄った。
「もう、エレンったら!」
「少しは元気出た?」
エレンは澄ました顔をしていた。
「クラウさんのことなら大丈夫よ、明日には戻って来るわ」
クラウの名にスピカはドキッとした。
クラウはスピカの先輩で気になっている人である。
スピカの元気が無かったのはクラウがこの場にいなかったことが原因だ。
「スッピーはクラクラのことが好きなのか?」
アディスは首を傾げた。
クラクラとはクラウのことで、アディスが勝手につけたあだ名である。
スピカもスッピーと呼ばれ、エレンはエレちゃんである。
「アディス、乙女の問題に口挟まないの」
エレンはきつく言った。
スピカの頬は熱くなった。クラウとは会う回数も増え、赤いリボンを誕生日にもらったりしたからだ。
好きかどうかは別として、一緒にいて落ち着くのは確かである。
「エレン」
スピカは友の名前を呼ぶ。
エレンはスピカの方を見た。
「心配してくれて有り難う」
スピカは言った。
クッキーのお陰か、少し元気が出た。
「料理ちゃんと食べるよ」
スピカは席について、盛ったピラフを食べ始めた。
クラウは帰ってきた時にでも一緒に過ごせば良いし、それまでは友達との時間を有意義に過ごそうと思った。
それから三人は笑ったり、はしゃいだり(特にアディス)してタナバタパーティーを楽しんだ。

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