休日。
哲は自分の部屋で勉強をしていた。
数年後の大学受験のために……
……頑張らないと、明美先輩のためにも。
哲は明美の笑顔を頭に浮かべた。
交際してからというものの、厳しい印象しかなかった明美の意外な一面が見えてとても楽しい。
なので、交際して良かったと心から思っている。

そんな時だった。

「哲」
母の声が響き、扉が開く。
「部屋に入る時はノックしてよ」
哲は部屋に入ってきた母に注意する。
たまにノックせずに入ってくるからだ。
「ああ、ごめんね」
母は謝った。
「それより、あなたにお客様が見えてるのよ」
「誰?」
「星野さんよ」
「先輩が……?」

哲は席を立って、玄関へと向かう。
そこには確かに明美が立っていた。
「こんにちわ、哲くん」
明美は挨拶をした。
「どうしたんですか?」
哲は訊ねる。
今日は明美とデートの予定は入っていないからだ。
すると、明美は哲をまじまじと見つめた。
「実はね、哲くんの顔が急に見たくなっちゃって」
哲の手を明美は握り締める。
急な行いに、哲は困惑した。
「ちょ……先輩!?」
哲の声が裏返る。
明美にしては大胆な行動だからだ。
「哲くんったら照れちゃって可愛い」
明美はからかった。
「あの、立ち話も難ですし、僕の部屋に行きませんか?」
頬を赤くしたまま哲は提案した。
人の目もあると、イチャイチャするのも恥ずかしい。
特に母の前で見られるのは抵抗がある。
その時だった。
明美の背後から、女子が怒気を発して現れた。
「ゆーうーくーんー?」
女子はもう一人の明美だった。
「あ……明美先輩?」
哲は目の前にいる明美と、出現した明美を見比べた。
二人とも瓜二つで、見分けがつかない。

 

「本当にごめんね、哲くん」
明美は哲に謝罪する。
「哲くん、今度の週末は私と一緒に遊ぼうね」
もう一人の明美……いや優は相変わらず哲をからかっていた。
「優、あなたも謝りなさい」
明美は厳しい声で言った。
「はいはい、ごめんね哲くん」
優の声には反省がこもってない。
仕方なく謝ったという魂胆が見え見えである。
こうして二人の顔を見ると、本当にそっくりである。
明美の話によると、優は女装する癖があり、今のように明美の姿になって人をからかったりすることがあるという。
「反省してる?」
明美は優を睨む。
「してるよ」
優は冷静な表情を崩さなかった。
母が三人分のジュースを持って来て、テーブルの上に置いた。
「あの……優先輩、聞いてもいいですか?」
哲が訊ねると、優はグラスから口を離す。
「何だい」
「どうして先輩は女の子の恰好をするんですか?」
哲は疑問を率直にぶつける。
彼が何故女装をするのか知りたかった。
優は薄っすらと笑った。
「楽しいからだよ」
優は嬉しそうに語る。
彼の表情を見ると、生き生きしている。
「何だったら今度はメイド服を着てこようか、僕の十八番なんだよ」
「優!」
明美が優に注意をした。
明美は優が女装をするのを快く思わないようだ。

こうして哲の休日は星野姉弟と過ごして終わった。
哲にとっては意外な一面を知る日だった。

 

後日哲の前にメイド服を着た優が現れたとか……

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