「あの小娘め……」
白雪姫は大鍋をぐつぐつと煮ていた。白雪姫の青い双眸は醜さで濁っている。

今まで鏡は自分が世界で一番美しいと言ってくれた。しかし娘が成長した途端に、娘が世界で一番美しいと言うようになった。
艶のある蜂蜜色の髪、綺麗な肌、悔しいが努力しても、若さでは自分では叶わない。
白雪姫は自分が産んだ娘が憎くてたまらなかった。

白雪姫が黒い粉を鍋に入れると、純白の光が鍋から溢れ、中から銀のナイフが現れた。
白雪姫は銀のナイフを手に持った。
「ふふっ……これであの子を殺せるわ」
白雪姫はにやりと笑う。ナイフには白雪姫の醜悪な顔が映り込む。
娘を自分の手で始末し、世界一の美しさを取り戻す。
娘は眠っているはずなので、今の時間に娘の部屋に行けば簡単に始末できるだろう。
が、白雪姫の思惑は、背中の痛みと衝撃により断ち切られることになる。
「うっ……」
白雪姫は痛みのあまりに、表情を歪ませる。
「あっはは! お母様、なんて無様なんでしょう!」
白雪姫の前には、朱に体や顔が濡れた自分の娘が立っていた。
娘の手にはナイフが握られていて、それも朱に濡れている。
「お母様が私を殺そうとしているのは分かってたわ、だから先手を打ったのよ!」
娘は白雪姫の体を踏みつけた。娘の顔は楽しげだった。
「さようならお母様、あの世で好物の林檎でも食べるのね」
娘は捨て台詞を残し、その場を去って行った。

娘を始末しようとしたが、返り討ちにされた。お妃に自分がした事が跳ね返ったのだ。
「ぐっ……」
白雪姫は苦しげな声を出した。
段々と意識が遠退いてきた。世界一の美しさを取り戻すことができないのが心残りだ。

白雪姫の意識は完全に途絶えた。白雪姫の死顔は憎しみで歪み、見る者の心に深く残りそうだった。 
 
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