空に大きな音と共に、美しい花が舞う。
それは綺麗な輝きだった。
僕の周りにいる人たちも、歓声を上げ、手を叩き、感動を表現する。
「今年も綺麗だな……」
僕は思わず呟く。
心の底から、この花火を見れて嬉しかった。

「おまたせー!」
僕の隣にジュースを持ったポニーテールの女の子が現れた。
幼馴染の麻衣だ。
「はい、これ!」
麻衣は僕にジュースを与えた。
「有難う」
僕はジュースを受け取って言った。
ジュースは僕が好きなメロンソーダ。
花火の光で、顔中の汗がはっきりと見て取れる。
「どこまで行ってきたんだ?」
「すぐそこよ」
麻衣は反対側の方角を指差す。
見ている限り、花火が見えるこの場所から距離がある。
「かなり遠いじゃないか」
「しょうがないでしょ、アンタが好きなメロンソーダそこにしか売ってなかったんだから」
麻衣はコーラを一口飲む。
彼女なりの気遣いが、僕は嬉しかった。

薄緑色の液体を僕は口に含む、ほんのりとした甘さが広がる。
僕が好きな味。
だけどもうすぐ僕はこの味を味わえなくなる。

「美味しい」
僕は思わず微笑んだ。
「なら良かった。苦労して行って来た甲斐があったわ」
麻衣はつられて笑った。
空には花火が浮かび、漆黒に鮮やかな輝きが花開く。
「たーまやー!」
麻衣は大声で叫ぶ。
「ほら、アンタも言いなさいよ」
麻衣に肩を捕まれて勧められた。
ちょっぴり気恥ずかしいが、折角来たんだし、叫ぶことにした。
花火が再び浮かんで咲いたとき……
『たーまやー!』
僕と麻衣の声が重なった。
「花火綺麗だね」
「ああ……そうだな」
麻衣はしみじみと語る。

毎年見ている花火だが、僕にとって今年は格別だ。
……僕は来年まで生きているか分からないから。
僕の体は病に冒されていて、今の医療では治せない難病で、余命は持っても半年かという診断だった。
治せないのなら、せめてその日が来るまで悔いの無いように生きようと決めたのだ。
今日の花火は僕の人生にとって最期となる。
そして麻衣と一緒に見るのも……

僕は忘れまいと漆黒に咲く花を胸に刻んだ。

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