―――わたしは幸せになる。あなたの分まで。
スピカはゆっくりと赤い絨毯の上を、一歩一歩進む。
周りにはかつての仲間、先輩、後輩が、スピカを見守っている。
先にある祭壇には、神父とスピカの夫になる男性が待っていた。
スピカは歩むたびに、この日に至るまでの長い過去を振り返っていた。
ハンスと再会し、彼と戦った後の過酷すぎる結末。
討伐隊に入り、厳しい訓練に耐え、アメリアとの別れ……友と信じてきた者の裏切り。
そしてアークのいる場所を発見し、アークを打ち倒した。
思い返せば、波乱に満ちた日々だった。
その中で見つけた大切な人。
彼となら素晴らしい人生を歩めると信じられる。
この先ある苦楽を彼と乗り越えられる。
彼を交際を通して、スピカの胸に思いが過ぎった。
彼から結婚を申し込まれ、何の躊躇いも無く受け入れた。
唯一の心残りは、家族に自分の晴れ姿を見せられない事だった。
(見せたかったな、わたしの姿)
スピカは歩きつつ、寂しさを感じた。
長いバージンロードを歩く際は父が娘と共に歩むが、スピカの父は他界している。
代理として、討伐隊の男性の先輩が名乗り出たが、スピカは丁重に断った。
他人と歩くよりは、一人で歩いた方が良いからだ。
祭壇で夫婦になるための儀式を済ませ
スピカは新郎と共に外に出た。
待っていた人から拍手で迎えられた。
「結婚おめでとうございます」
チェリクは笑顔で言った。
「ありがとう」
「アンタね、スピカを泣かせたら承知しないからね」
新郎に歩み寄り、エレンは食って掛かる。
彼女なりにスピカのことを心配しているのだろうが
少々やりすぎである。
新郎も困惑している。
「エレン……」
スピカはエレンを宥めた。
皆に祝福され、スピカは嬉しかった。
一人一人の温かな眼差しを見ていた。そんな時だった。
最後の列には、ハンスと両親の姿があった。
(え……?)
三人とも嬉しそうな表情で手を叩いていた。
「どうしたんだ?」
新郎に声を掛けられ、スピカは彼を見る。
スピカは最後の列に目を向けるが、三人の姿は無かった。
「何でもないわ、大丈夫よ」
スピカは口元を緩めた。
きっと天国からスピカの晴れ姿を見るためにやってきたのだ。
幻ではなく、確かにスピカには三人の姿が見えた。
(……ありがとう、父さん、母さん、ハンス)
スピカは心の中で家族に礼を言った。
その後、スピカは新郎と共にブーケを空高く放り投げた。
ブーケを受け取った人が最高の人生を歩めるように……
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