アタシは卒業証書の筒を持ち、ゆっくりと帰り道を歩んでいた。
澄み切った青空の下、生暖かい風がアタシの頬と髪を吹き抜ける。
「良い風だわ……学校と別れる日にしては上出来かも」
 アタシは空を見上げて呟く。
アタシが過ごしてきた三年間の毎日は勉強と部活で忙しく過ぎていった。最初は頭が痛くてたまらなかった授業内容、思うように技術が向上しなかった部活動、一緒にいて楽しかった友達、言う事を聞かない後輩。
 そして最後の学園祭を盛り上げようと一丸となって成功させた日。
 色々あるけど、どれもアタシにとって大切な思い出の一部。
 校庭にはアタシの同級生がまだ何人か残っていて。泣いている子、笑っている子、記念撮影をしている子……など、色とりどりであった。
 アタシの友達は卒業する悲しさによって教室で泣き崩れて、十五分位かけてなだめて、今さっき別れたばかりだが後で様子を見に行こう。
 「……」
 アタシは足を止めて後ろを振り向いた。アタシが通っていた学校は小さくて見えない。
 もうこの通路も通わないと思うと、胸の中が締め付けられるような悲しさと、切なさが過ぎる。
 「泣くのも無理ないよね、今日で全部が終わって四月から新しい日々が始まるんだもの……不安でたまらないわよね」
 アタシの心の中は複雑な感情が揺れ動いていた。
 この先にある未知の世界への不安、もう二度と戻れない楽しかった日々への決別、仲間との別れ、大人になることに対する戸惑い。
 バラバラになったパズルのピースがあちこちに転がり、アタシはどこに手を付けていいのか分からず動けない。そんな状態。
 今のままが良い。でもいつまでも同じではいられない。同じなままでは人間は成長できない。
 始まりがあればいつかは終わりがくる。
 仕方が無いのだ。人生は山あり谷ありなのだから。
 「今までアタシを学校に通してくれてありがとう、君のことは決して忘れないよ、そしてさようなら」
 アタシは世話になった通路にお礼をした。変かもしれないが、アタシなりにできる精一杯のお礼だ。
 友達の家に行くに使うかもしれないが、学校に行くためにはもう使わないだろう。
 さようなら学校。
 さようならみんな。
 そしてさようなら過去の自分。

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