「わーい、桜がきれいだね」
 「ああ、春って感じだな」
 フレアは満開の桜を指差しました。二人が歩いている道の両脇には桜の木が植えられており、その全てが花開き、桃色の輝きを放っています。
 フレアはシルヴィスと共に、桜を見に来ました。
 二人とも黒髪で、フレアは青い瞳、シルヴィスは赤い瞳、背はシルヴィスの方がフレアよりもずっと高いのです。二人は一緒に旅をしてきた仲間同士です。
 「もう春か……時間が過ぎるのも早いな」
 シルヴィスは桜を眺めました。フレアだけでなく他の仲間との冒険を終えたのも春だったのでとても懐かしく思えました。
 シルヴィスは仕事の合間を見ては、時々フレアの様子をこうして見に来ます。フレアの成長振りを見るのが楽しみだからです。
 「見て見てシルちゃーん、桜拾ったよ!」
 シルヴィスが呟いている間に、フレアは桜の花びらを拾い、シルヴィスに見せました。
 フレアの小さな手には一枚の花びらがのっています。
 「おいおい先に行くなよ、オレを置いていく気か?」
 「違うもん、桜をシルちゃんに見せたかったの」
 フレアは言いました。フレアが持ってきたのは花びらでしたが、シルヴィスは背を屈め微笑んで花びらを受け取りました。
 「お前も相変わらず真っ直ぐだな、あいつにも見習わせたいよ」
 シルヴィスはフレアの頭をそっと撫でました。
 「あいつってだあれ? 大きなくまさん?」
 フレアは青い瞳を丸くしてシルヴィスに聞きました。
 「内緒、強いて言うならくまじゃないぞ、もう少し先まで行ったら帰って昼メシにしような」
 シルヴィスは桜の道を歩き始め、フレアはシルヴィスを追いました。
 フレアはシルヴィスの言葉が気になりましたが、昼食の内容の方がもっと気になりました。
 フレアはシルヴィスの作る手料理が大好きだからです。
 「じゃあオムライスがいいな、グリンピース抜きでお肉たっぷりの!」
 「肉ばっかりじゃ将来ブタさんみたいになっちゃうぞ?」
 「フレアはブタさんになんかならないもん!」
 シルヴィスは足を止め、フレアに目線を移しました。
 「冗談だよ、今日だけ特別にフレア版オムライス作るよ、桜も綺麗だしな」
 「わあーい! ありがとー!」
 フレアは飛んではしゃぎました。
 「シルちゃんの料理は美味しくって好き」
 「こいつ、お世辞が上手くなったな」
 シルヴィスは照れくさそうに言いました。本心ではとても嬉しいのです。
 二人は楽しそうに桜道を歩いていきました。

 解説

 戻る

inserted by FC2 system