ジャドー
あなたと眠るのは今日で最後でしょうね
だって、私は今日で死ぬのだから。
温もりの残る毛布の中で、マリアは青色の双眸を開く。
そしてゆっくりと腰を上げ、側で眠る愛しい人の寝顔を眺める。
「いつ見ても可愛いわね、貴方の寝顔は」
マリアは小さく微笑んだがすぐに消え去った。なぜなら彼の寝相は相当悪く、身体を包んでいた毛布は完全に無くなっていたからだ。
彼は組織にとって重要な戦力、些細な癖が原因で体調不良になって動けなくなっては任務にも支障が出る。
「もう……仕方無いわね」
呆れたように言うと、マリアは彼の身体に毛布を掛けた。そして彼の頬に軽く口付けをする。
その際、胸がちくりと痛み不安と恐怖が入り混じる。
もう二度と彼の身体を抱く事ができないのだ。なぜなら今日行われる任務は自分の命を散らすからだ。
避けることも、逃げることも不可能。
もし任務を放棄すれば、マリアと関わっていた彼の命を危険にさらす。それだけは決してあってはならない。
「ジャドー私は行くわ、世界で一番愛したあなたを守るために……私が死んでも悲しまないでね、あなたはこの先の未来に必要だから」
青い髪をそっと撫で、マリアは囁く。
彼の温もりに触れられなくても、太い腕に抱かれなくても、彼と共有してきた時間が消えるわけではない。
彼との記憶は永遠にマリアの中で生き続ける。例え魂になったとしても。
分かっているつもりだった。覚悟していた。
だが……
マリアの瞳からは涙がとめどなく溢れた。頭で分かっていても別れは辛い。
「あなたに会えなくなるのは寂しい……このまま時間が止まれば良いのに」
涙は彼の頬や肩に落ちる。彼と一緒にいたい。彼のことを知りたい。叶わないことかだが彼と結婚して、家庭を作りたいとさえ思えた。
森に囲まれた小さな家で、彼と共にいつまでも笑って暮らせる。そんな微笑ましい想像が頭の中に作り上げられた。
彼と一緒に幸せな生活を送りたかったな……
課せられた宿命を変えられないのがたまらなく悔しかった。もしも自分の力で変えられるのであれば、彼と共に歩ける未来を選ぶだろが、現実はそうはいかなかった。
マリアに残された時間は少ない。
「俺のことは気にするな」
身体が大きく動いたと思いきや、彼の顔はマリアに向けられた。冷たく鋭い藍色の双眸に、整った顔立ちが印象的。
「ジャドー……」
「どれだけ遅くなってもお前の元に必ず行く……だから心配しなくてもいい」
彼は無表情のまま、指でマリアの涙を拭う。
彼なりの愛情表現は、不安と苦痛で揺れていたマリアにとって心を癒す薬となった。マリアの命が消えたのならば、彼も後を追う気らしい。
「本当に……?」
マリアは彼の手を両手で握り締めて訊ねると。彼は首を縦に軽く振る。
「お前がどんな場所にいようが探し出す。だから安心しろ……今は任務を遂行することだけを考えるんだ」
心を落ち着けて、マリアは言葉を返した。
「私は長時間待たされるのは好きじゃないわ、できるだけ早く探しに来てよ、でないと怒るわよ?」
「ああ約束する。恋人を待たせるは趣味じゃないからな」
彼は躊躇うことなく答えた。
二人はベットの上で口付けを交わす。お互いの身体を強く抱きしめたまま……
二人の間にある愛を感じ合うように……
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