炎が立ち込め、建物の至るところに、炎が乗り移り柱や壁が音を立てて倒壊していた。
最悪な状況の中、スピカは大柄の青年を抱えて前へ進んでいた。
「スピカ……俺を置いて……逃げろ……」
青年は息絶え絶えにスピカに語りかける。
「嫌です……先輩を置いていけません……」
消え入りそうな声でスピカは答える。
動くだけで、全身の傷が痛み、血が流れる。
二人が通った後は、血の後がくっきりと残っている。
お互い酷い怪我を負っており、一刻も早く治療をしなければいけないのは明白だ。
「下手をすれば……君は……死ぬんだぞ……」
青年は再度忠告する。
スピカは首を横に振る。
「先輩を置いていくくらいなら……わたしは……死にます」
痛みにより、表情を歪めつつ、スピカは答える。
「今回の事態を招いたのは……俺の責任だ……」
青年は力なく語った。
「だから……その責任は……俺が取らなければ……ならない……」
「何言ってるんですか……先輩は悪くないですよ……」
スピカの足元はふらつき、青年を抱えたまま地面に転倒した。
二人が重傷を受けたのは先ほどまで戦っていた敵が原因だった。
その強さはスピカが今まで経験したことがない程だった。二人がかりでも苦戦を強いられ
全身傷だらけになって、ようやく仕留めたと思えば、強力な火炎魔法を放ち、二人を道連れにしようとしたのだ。
スピカは体に力を込め、体を起こした。
「君のせいじゃない……俺が悪いんだ……」
青年はスピカの顔を見る。
「先輩のせいじゃないです……悪いのは……先輩を操ったアイツです……」
スピカは言い切る。
青年は敵に洗脳され、スピカに攻撃をしてきたのだ。
スピカはその際、青年の攻撃をまともに受けたのだ。
スピカの傷は敵が作ったものではなく、青年が作ったものだ。
「自分を責めるのは……やめて下さい……先輩の悪いクセですよ……」
スピカは微笑む。
青年は元に戻り、敵を倒したのだから、過ぎたことだ。
それに戦いに身を置く人間なので、怪我をすることなどスピカも承知の上である。
「スピカ」
スピカは青年を抱き上げようとした時に、青年に名を呼ばれた。
何度も彼に呼ばれだが、今回は違った。
青年は体を起こしたと思えば、スピカの顔に近づく。
「……!?」
最初は何が起きたのかスピカ自身理解できなかった。
だが、唇が熱いことに気づき、スピカは目を丸くする。
青年とキスしているのだ。
周りが倒壊していく中で、この時だけ、二人の時間がゆっくりと流れた気がした。
名残惜しそうに青年は、スピカの顔から離れた。
「ずっと君が……好きだった……」
青年は悲しげな表情を浮かべた。
「だから……君には……生きて欲しい」
「何言ってるんです……」
スピカが最後まで話をすることは出来なかった。
なぜなら、首筋の鋭い痛みによって意識が途絶えたからだ。

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