寒い風が吹く三月、 響は教室内で仲の良い雅樹と颯太と一緒に過ごしていた。
「いよいよ今日で終わりか」
響はしんみりした。
今日は卒業式で、こうして教室でつるむのも最後である。
「お前等と過ごした三年間楽しかったぜ!」
雅樹は明るく言った。
「卒業してもまた会えるよな?」
寂しげな表情で颯太は二人を見た。
「俺は来週まで残ってるから、何かあったら連絡くれよ」
響は颯太と目を合わせる。
響は専門学校への進学が決まっており、四月から一人暮らしをする。
「颯太はまだ決まってねーんだったな」
雅樹は口を出した。
颯太は卒業後の進路が決まっていない。
ちなみに雅樹は大学への進学が決まっている。
「おい、雅樹」
響は雅樹を注意する。
触れられたくない部分だったのか、颯太の表情は暗い。
颯太にも決められなかった事情があるのかもしれないので、深入りするのは友達でも良くない。
「悪ぃ、颯太」
「いや、いいんだよ」
颯太はぎこちなく笑った。
「俺達離れてもずっと友達でいような」
空気を変えるため響は力強く語る。
三年間ずっとクラスでも一緒だったので、明日から学校で会えなくても、響にとって二人はかけがえのない友達で、頻度は少なくなっても二人には会おうと思っている。
雅樹は「おう!」と威勢よく言うと響に肩を回す。
「お前のことずっと忘れねーからな!」
「僕も忘れないよ、雅樹と響のこと」
颯太も雅樹に便乗した。
「颯太のやりたい事が見つかるといいな」
響は颯太を励ました。
例え今は決まってなくても、颯太が夢中になれる事が見つかってほしいと切実に願っている。
「見つけられるように頑張るよ」
颯太は言った。
三人が話している時だった。教室の中に、一人の女子生徒が入ってきた。
女子生徒の姿を見るなり雅樹が響に耳打ちをした。
「響、光田だぞ」
「ああ……」
響は女子生徒の姿を見て、視線をそらした。
光田さんこと、光田凜花は響が気になっている女子生徒なのだ。
三年間まともに話したことがない。
「良いのか? 今日を逃したら光田には二度と会えないぞ」
雅樹が忠告を促す。
凜花は響とは通学路が別のため、卒業してしまうと会えなくなる。
何度か彼女と話す機会を伺ったが、勇気を出せずに、今日を迎えてしまった。
「行ってきなよ、光田さんに思いを伝えるんだよ」
颯太は真っ直ぐな目で響を見た。
二人の友達に背中を押され響はゆっくりと歩く。
二人といた時とは違い、異性に話しかけると考えるだけで緊張する。
凜花を意識し始めたのは、彼女と一年の学園祭の係で一緒になったのがきっかけだった。
凜花と話をするにつれ、クラスメイト以上の感情を抱くようになった。
二人からは「早くコクれよ」や「後悔するよ」など催促されていたものの、フラれるのが怖いので踏み出せずにいた。
しかし、今日は卒業でこの日を逃すと一生後悔する。
(進路は決まったんだ。こっちも決めたい)
響は手を強く握り、早まる鼓動を胸に、凜花の元に進んだ。
「なあ、光田」
響が声をかけると、凜花は響の方を向いた。

響にとって卒業は大きな変化を迎える日となった。

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