「かんぱーい!」
ファミレスに三人の男女の声が響き渡る。
三人は注文した飲み物を飲んだ。
「はーうめーな!」
翔太はカップを置いて元気良く言った。
「良い飲みっぷりね、翔太くん」
明美は薄っすらと笑う。
「輝宮先生綺麗だったね~」
まどかは頬を赤らめてうっとりした。
三人はかつて世話になった輝宮(かがみや)先生の結婚式に出席し、久々の再会を祝したいということで、まどかの提案でファミレスでパーティーを開こうということになったのだ。
「ああ、幸せそうだったな!」
「二人が仲良かったの知ってたけど、いざ結婚なんてびっくりだよね!」
幼なじみと友は笑いながら語る。
「オレはてっきり王先生かと思ったぜ」
「確かに! 仲良かったよね」
王先生は輝宮先生とよく絡み、輝宮先生のことを「かがみ~ん」と変なあだ名で呼んでいたことが記憶に残る。
明美から見ても王先生と輝宮先生は似合っていたので、今日の結婚式で輝宮先生が木之本先生と腕を組んで並んでいたのを見て驚いた。
「だよね、明美!」
友に話を振られ、明美は体をぴくっと動かす。
「あ……うん、そうね」
明美はぎこちなく言った。
「どうしたの? 結婚式の時からずっと元気ないじゃーん」
まどかが明美の顔を覗き込む。
「そんな事ないよ、輝宮先生が結婚したことは本当に嬉しいわ」
明美は言った。
輝宮先生が木之本(きのもと)先生と結婚したことは心の底から嬉しかった。
輝宮先生は風紀委員の顧問で、明美は大変世話になったので、恩を忘れるはずがない。
明美は祝いの言葉をかけ、花束を渡すと輝宮先生は暖かな笑顔で返してくれた。
嬉しくないなんて言うと罰が当たる。
ちなみに明美の弟の優も結婚式に来ていたが、用事があるということで結婚式が終わった後に帰った。
「今度休みに輝宮先生の家に遊びに行ってみない?」
明美は空気を変えるために、話をすり替える。
輝宮先生に誘われていたからだ。
「明美がそんな事を言うなんて珍しいわね」
まどかが疑いの目を向ける。
「だって……色々なことを話したいの」
明美は慌てて答える。
その言葉に嘘はない。輝宮先生の家に行き、話をしたかったからだ。
「まあ募る話しもあるしね、スケジュールは空けておくよ!」
「オレは休日出勤あるから悪いけどまた今度な」
はりきるまどかとは対象的に、翔太は申し訳なさそうに手を合わせる。

話を上手く変えられて、明美は内心ほっとした。

 

二人と別れ、明美は自宅であるアパートに帰宅するなり、ベッドに横たわる。
「ふう……」
明美はスマホを取りだし、連絡がないか確認した。
優からメールが来ているだけだった。
「もう、諦めろってことよね?」
明美はため息混じりに呟く。
今日の結婚式では明美の交際相手である・小野哲も出席していた。
しかも隣には仲良く歩く女子が一緒だった。見た時は衝撃で言葉が出なかった。
学園を卒業してからは忙しさのあまり連絡を取らなくなり、会わなくなっていた。
それがいけなかったのだ。
彼に寂しい思いをさせたため、気持ちが違う女子に向いたのかもしれない。
哲を問い詰める勇気が明美には無かった。彼と話し合う機会が無いまま結婚式が終わったのだ。
まどかに気づかれず過ごすのは大変だった。もしまどかに打ち明けていたら哲を呼び出して問い詰めそうだからだ。
冷静に考えられる今なら認めざる得ない。
哲との関係は終わったと。
悲しくないというと嘘にはなるが、不思議と涙は出なかった。
明美は電話帳に登録されている「小野哲」という名前を出した。
「さよなら、あなたの幸せを願っているわ」
明美はそう呟いて削除した。
哲との恋が駄目になったとしても、思い出が消えた訳ではない。
大切にしまって生きていくつもりだ。
「もう寝なきゃ」
スマホを充電器にかけ、明美は動き出した。

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