雨が降るその日、アタシと相手との関係が変わった。
……そう、何の前触れも無く。

レイン・ドロップ

「ずっと前から好きだったんだ。俺と付き合ってくれ」
誰もいない屋上に呼び出されて、突然アタシは男友達に告白された。
それもよく一緒に遊んだり、勉強を教えあう仲だった。
一緒にいて楽しいし落ち着く。好きといえば好きだが、あくまで友達としてだ。恋人とは違う。
アタシは彼の顔を見られなかった。心臓が高鳴り、頭がくらくらした。
雨の音だけが、アタシの周りで響いていた。その音は世界が変わったことに対する祝福には聞こえない。
彼の告白が、元の世界を変えてしまったのだ。

この後、アタシは彼とどう接していいのか分からなくなった。
何気なくしていた朝の挨拶も、休み時間の他愛の無い会話も、その日を境に無くなった。相手から話しかけてきても適当な理由をつけて逃げた。
逃げていても、問題解決にならないのは理屈で分かっているが、どうしても話したくない。
もうアタシの知っている彼でない気がしたからだ。
彼との接点を断つ日々が続くうちに、アタシは進級してクラス替えになり、彼とは別々になり、接触する機会が無くなった。

……どうしてこうなるんだろう、前まではあんなに仲が良かった。一緒にはしゃいで、笑って泣いて。
「好きだ」と言ってくれて、とても嬉しかったのに、何で避けるようになったんだろう?
 結局アタシは中学を卒業するまで、彼と一切関わりを持たなくなった。
 アタシと彼の間に大きな溝が埋まらないまま……
 アタシは失って初めて彼の存在の大きさを実感し、涙を流した。取り戻せない時間が悲しかった。
 
 それから、アタシは高校に進学し、彼氏ができて初デートをすることになった。
この日の天気は爽やかな快晴。
 デートをするには最高の日だ。
 「おまたせ!」
 アタシは待っていた彼に明るく言う。
 「お前、その服凝りすぎだろ」
 「初めてのデートだから、ちゃんとした服できたかったのよ」
 アタシは微笑んだ。
 「行こっか、遊園地に」
 アタシは彼と手を繋ぎ、一緒に歩いた。
 彼は照れくさそうに笑っていた。
 
 あの雨の日をきっかけに、アタシは大切な人を失ったけど、新しい人間関係を築くことができた。
 昔のアタシだったら避けていたけど、今度は違う、逃げずに彼との付き合いで自分を変えていこうと思った。

 忘れない、あの日の雨雲を。
 
※この作品は競作小説企画【 Crown 】に提出しました。


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