昼休み
昇は食堂でレア先生と王先生と共に食べていた。
基本的に、この二人と食べることが多い。
「かがみんの様子はどうだ?」
ハンバーグを口に運び王先生が訊ねてきた。
王先生の言う"かがみん"は昇の身内であるまりあのことだ。
「元気ですよ、王先生がちゃんと仕事してるか気にしていました」
昇はまりあの手作り弁当を一口入れる。
まりあは産休に入ったため、今は学園にいない。
「アンタのお弁当美味しそうね~まりあの手作り?」
レア先生が昇の弁当箱を覗き込む。
「そうですけど……」
昇はそっとレア先生の前に自分の弁当箱を差し出した。
「良かったらどうぞ」
「えっ、いいの? じゃあこれ頂きっ!」
レア先生は昇の弁当箱にあったおかずを一個口に入れた。
「うまい! こんなうまいの初めて食ったよ!」
レア先生は興奮混じりに言った。
「俺もいいか?」
「はい」
レア先生につられる形で、王先生も弁当箱のおかずを食べた。
すると王先生の表情は驚きの色に変わった。
「こりゃ確かに絶品だな」
王先生はぱちくりと瞼を動かす。
「アンタも幸せね、こんな美味しい料理を作れる奥さんと結婚できて!」
レア先生はまたしても弁当箱のおかずをつまんだ。

 

「……ってことがあったんだ」
「多めに作っておいて良かったわ」
昇は昼休みでの出来事を話すと、まりあは可愛く笑った。
王先生とレア先生に食べられることを想定して、多く作っているのだ。
そのため二人が食べても昇が満腹になるだけの量が残る。
妊娠し、体調が優れない中でもまりあは細かい配慮をするのは有難い。
「二人とも相変わらずね」
「そうなんだよ」
昇は薄っすらと笑った。
「明日はどんなおかずがいいかしら?」
まりあが訊ねてきた。
明日のお弁当のことだ。
「明日は自分で作るよ」
昇は優しく言った。
「でも……」
「君に負担をかけたくないんだ。たまにはゆっくり眠って欲しい」
まりあは食事の準備をするために、朝早く起きている。
妊娠してからもそれは変わらない。
時にはまりあに楽をさせてもバチは当たらないだろう。
「いいの?」
「まりあほどじゃないけど頑張るよ」
昇はまりあを見つめた。
昇の料理はまりあに負けない程美味しい。
まりあは視線を落ち着きなく動かした。
「あなたの作る目玉焼きが食べたいわ」
頬を赤らめて、まりあは恥ずかしそうに言った。
「目玉焼きだね? 分かったよ」
昇は照れるまりあが可愛く見えて頬にキスをした。

 

静寂に包まれた部屋は、うめき声により破られることになった。
「う……嫌だ……やめて……」
重い瞼を開き、昇はまりあの方に顔を向ける。
まりあは表情を歪め、全身を震わせていた。
尋常ではない様子に、昇は体を起こしてまりあに呼び掛けた。
「まりあ」
「……ここから……出して……」
昇の声に目を覚ます様子がない。
怖い夢を見ているのか、涙を浮かべている。
同じ光景を度々か見てきたが、慣れることはない。
「起きてくれ」
昇はそっとまりあの体を揺さぶった。
「まりあ、起きるんだ。まりあ」
声をかけ続けると、ようやくまりあは目を開いた。
まりあははぁ……はぁ……と口呼吸をした。
「大丈夫か?」
昇はまりあの顔を覗き込む。
まりあは涙を袖でぬぐって、「ええ」と力無く答える。
「ごめんなさい、起こしたりして」
まりあは視線を反らした。
誰にだって思い出したくない事はある。
まりあが夢でうなされるのは、そういった部分が蘇るからだ。
結婚してからも、度々うなされ、自分のことのように胸が痛む。
昇はまりあの背中からそっと抱きしめた。
「側にいるから安心していいよ」
昇は囁く。
まりあは昇の腕に手を当てた。
まりあとこうして触れ合えるようになったのは、交際してから長い時間がかかった。
なのでまりあの温もりを感じられるのも、信頼されている証なので嬉しかった。
「……有り難う、あなた」
まりあは目を閉じ、少し笑った。

昇はまりあが安らかな寝顔を見て、瞼を閉じた。
二人のいる部屋は、再び静けさが戻って来たのだった。

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