茶色いアーチ型の入り口を潜り、ラフィリスとアディスは元気な声を発した。
「ただいま」
「スッピー、戻ってきたよ」
二人の騒がしい声に、入り口付近で待っていたジャドーは表情を歪めて歩み寄る。
ジャドーは青い髪に、同色の釣り目、背丈の高い男だ。
「お前等、静かにしろと何度も言わせるな」
ジャドーはドスの効いた声で言った。
今は深夜二時過ぎで、他の人間は床についている時間帯。
彼が注意するのも無理はない。
「だって、疲れているんだもん」
笑顔を浮かべ、ラフィリスは体を回転する。
彼女のトレードである。金髪の左右のツインテールが可愛く揺れた。
とても疲れているとは思えない……とジャドーは突っ込みたかったが言葉を飲み込む。
「あれ……スッピーは?」
アディスは左右を見渡しながら言った。
彼にとって一番会いたい人物の顔を見たいのである。
「とっくに眠ったぞ」
「そ……そんなぁ……」
アディスはうなだれた。
スピカの顔が見れないと聞くと、一気にテンションが急降下した。
「朝になれば起きるから、その時に会えば良いだろ」
「わかっているけどよ……」
アディスは地面に目線を向けた。よほどショックだったことが伺える。
それもそのはずだった。スピカの笑顔を見たい一心で喋りたいのをこらえて、必死になって任務をこなしたからだ。
彼にとっての褒美「スピカの笑顔」がすぐに見られないのは悲しい。
ちなみにスピカは二人の上司である。
「ところでジャドー君、あたし等に何か用事でもあんの?」
ラフィリスは両手を後ろに組み、ジャドーを見上げて訊ねた。
ジャドーがこうして待ち伏せしているのは、重要任務がある時ぐらい。
「……察しが良いな、お前等に重要な話があるんだ。一緒について来い」
ジャドーは背を向け、手招きをする。
落ち込んでいるアディスを引っ張り、ラフィリスはジャドーについて行った。

それぞれの想い

ラフィリス達はアジトの奥にある食堂で、ジャドーの話に耳を傾ける。
敵の目的は城襲撃で、襲撃時刻……など。
要領よくまとめられていた事もあってか、普通なら一時間以上はかかりそうな話だが、三十分ほどで終了した。
任務の話だけあって、二人は私語を一切言わずに聞き入っていた。
「……と、言うわけだ。分かったな」
「はい、分かりました! 準備は入念にやっておきまーす!!」
ラフィリスは席から立ち上がり、片手を宙に伸ばす。
任務遂行の際に、体力を消耗しているのだが、そうは思えないほど元気一杯だった。
城を襲う連中は世界の至る所で悪事を行っており、彼等はその連中から平和を守るための活動をしている。
「俺はもう寝るぞ、スッピーの笑顔をいち早く見るために」
落胆した声で、アディスは席を立ち振り返る事も無く、食堂を去る。
食堂に残されたのは、ラフィリスとジャドーだけだった。
「……お前も早く寝ろ、俺は起こさないからな」
ジャドーはラフィリスから目線を反らし、ぶっきらぼうに口走る。
彼の口振りからして、ラフィリスと関わりたくないという気持ちが出ている。
「それじゃつまんない、今回の任務はジャドー君と一緒に行くんだから、もっとジャドー君の事を知っておきたいな」
ラフィリスはテーブルに顔を置いて、首をかしげる。
普段、ジャドーとは行動を共にすることは滅多になく、ジャドーの内面はほとんどと言って良いほど分からない。
「俺のことなんかどうだって良いだろ」
「そんな事ないよ、ジャドー君はあたしの仲間だもん、随分長い間一緒にいるけど、ジャドー君のこと、何も分からないんだよ」
ラフィリスは口を尖らせた。
「無駄話は止めて休むんだ、疲れたままの体じゃロクに仕事も出来ないぞ」
ジャドーは素早く席を立ち、足早にラフィリスの横を通り過ぎる。
話をあやふやにされ、ラフィリスは気分がすっきりしない。
「あーまたそうやってはぐらかす!」
ラフィリスはジャドーの後をついて行く。
彼女は諦めるつもりは無かった。ジャドーのことをちょっとでも知るためである。

それぞれの想いを胸に、夜は過ぎていく。
朝日が昇り、新しい日が来るまでの、僅かな安らぎだった。

戻る

inserted by FC2 system