月が照らす夜、闇の世界は大地の静寂を見守っている。
森の中にある双子の住む屋敷も同様に……
「姉ちゃん」
弟に呼ばれスピカは瞳を開くと、目の前には不安げな表情を浮かべた弟がジッと見据えている。
体はガタガタ……と震え、様子が可笑しいのは一目瞭然。
幼い姉弟は一緒の布団で眠っていたものの、突然弟が目を覚まし、左側で寝てた姉を起こすことになった。
「どうしたの? 」
眠い目を開かせ、スピカは弟・ハンスに訊ねる。
本当は眠くてたまらないがハンス潜む不安を取り除くため、話に耳を傾けることにした。
姉の声に安心し、ハンスは口を開く。
「怖い夢を見たんだ。大きな化け物がずっと追いかけてくるんだ。父さん、母さん、姉ちゃんの姿を探しても全然現れなくて……」
ハンスは姉と同じ紫色の瞳を右下に向ける。表情は相変わらず固い。
「ぼくは化け物に捕まってそのままさらわれちゃうんだ、みんなは見ているのに誰一人としてぼくを助けてくれないんだ」
話をしている間、ハンスの体はますます震えた。夢とはいえ化け物にさらわれることはとても怖がっていようだ。
昼間に読んだ幽霊の話をハンスは怖がっていた。
その影響なのかもしれない。
「化け物に捕まったらどうしよう……ぼく怖いよ……」
ハンスは紫の双眸から薄っすらと涙を流す。
そんな弟をスピカはそっと抱きしめると、ハンスはスピカの体に両手を回し、胸の中で声を発して泣き出した。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんがハンスを守るよ、化け物なんかにハンスを渡したりしないわ」
スピカはハンスの頭を撫でて、慰めの言葉をかけた。
力が劣る弟だからこそ守りたい。
ハンスの夢に出てきた自分のように、ハンスがさらわれても何もしない自分になりたくない。
「本当? 」
ハンスは顔を胸から離れて首を傾げる。
「約束するわ」
スピカは軽く頷いて、口元を緩める。
弱くても、泣き虫でもたった一人の弟に変わりない。
いつかは自分がいなくても歩いていけるまで、支えてあげたい。
心の中でスピカはそう思った。
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