今日は節分
僕は初めて豆を食べ、豆まきをした。
鬼に扮した義父さんが豆をまく太一に追いかけ回され、姉さんや緑が楽しそうにはしゃぐ。
黒崎家にいた時には経験できない貴重な節分だ。
「優お兄ちゃん、恵方巻き初めて食べるの?」
太一が僕に声をかけてきた。
「そうだよ」
「ふーん」
物珍しげに、太一は僕を眺める。
太一に金持ちの家のことを理解させるのは難しい。
太一の当たり前は、僕にとって初めてだからだ。
「太一が大きくなったら僕の言うことを理解できるよ」
「大きくって、どれくらい?」
「僕と同じくらいかな」
変な回答を口に出そうと思ったが、姉さんに叱られるので、当たり障りのない返事をした。
「二人とも遅いね、先食べちゃおうか?」
「駄目だよ、お姉ちゃん逹が来るのを待つ」
太一は僕をみてむっとした表情を見せた。
姉さんと緑は今、自分たちの分の恵方巻を作っている。
「分かったよ」
僕は言った。
太一はお姉ちゃん思いの優しい子なんだな。生意気な部分はあるけど、良いところはぶれてはいない。
これから色々あるかもしれないけど、このまま育って欲しいなと切実に思う。
ふと太一の体を見る。彼の背は僕の腰まであった。
「また背伸びた?」
僕の問いかけに、太一は頷く。
「毎日牛乳飲んでるから! 優お兄ちゃんを追い越すんだ!」
太一ははりきって言った。
僕が星野家に来た頃に比べ、背が伸びた。
成長しているのが目に見えて分かる。
「じゃあ僕も太一に負けないようにしないとね」
僕は太一に宣言する。
僕の年齢からして、背が伸びるか微妙だけど。
「ごめん、お待たせ!」
姉さんの声がして、続いて緑が現れた。
「やっと現れたね」
僕は呟いた。
四人揃った所で、僕は恵方巻きを口にした。
美味しくて、忘れられない味になった。